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第5話

「えっここ……?」  後ろからの不安そうな声に背中を向けたまま頷き、入っていけば、想像したとおり、藪の隙間から美しい夕陽が差し、いつも知っている秘密基地とは違う雰囲気だった。 「うわあ、きれいだね!」  藍は飛び上がって喜び、小さな――子供10人も入れないだろうその空間を眺め回していた。 「ここにいると、周りから僕たちは見えないんだ」  得意になってそう説明したのを覚えている。説明する言葉の1つ1つに藍は驚き、感動し、喜んだ。 「ないしょだね、僕たちだけの」 「そう、ないしょだ」  それから俺たちは何度も秘密基地に赴き、学校のことや同級生のこと、親や先生に怒られたことを話し、戦隊もののヒーローのマネをし、この空間では何でもできた。  ある日、遊び疲れ、藪の隙間から沈んでいく夕陽を見つめ、暗くなってからは夜空の満天の星を、2人でいつまでも見上げていた。  遠くで自分の名を呼ぶ大人の声を聞いて、はっとした。 「藍、まずい」  急いで藍の手を取って藪から出たとき、周りは闇に包まれていた。  さすがに恐怖を覚えて、ぎゅっと藍の手を握り締めて強張る足を踏み出したとき、 「柾ちゃんかね?」  そう名前を呼ばれ、懐中電灯の明かりで照らされた。 「ああ、良かった、柾ちゃん、何しとるがね。親御さんが心配してるぞ。それに、その隣の子の親御さんも心配しているだろうに」  自分たちが知らぬ間に、近隣を巻きこむ騒ぎになっていたことに気がついた。  ことの重大さが分かってくると、夢中になって知らず門限を破ってしまった困惑、藍もその親も困らせてしまったという事実の重さに直面させられ、涙が浮かんできて、そのまま大きな声を上げて泣いた。  見つけてくれたじいさんは、突然泣き出す俺と、きょとんとした藍を両腕に抱きしめて、よしよしとあやし、そのまま俺の家に2人を連れていってくれた。  家に入るなり、母親が泣きながら走ってきて俺を抱き、心配したんだからと大きな声で怒鳴った。  柾の頭を撫で、身体に傷がないことを確認してから、ようやく隣の藍の存在に気がつくと、母親は再び動顛した。  そこからまた藍から電話番号を聞き出し、藍の親に連絡を取り、藍の家まで車で送っていくという一騒動も二騒動もあった。  そして到着した藍を迎えに出た藍の親の目に涙が浮かんでいるのを見て、謝り倒す自分の母親の後ろ姿を見て、なんて悪いことをしてしまったんだろうと気がついた。  この後からは、2人で秘密基地に行っても、必ず門限は守るようになった。  夏休みに入っていつもどおり遊んでいたある日、珍しく藍から、 「柾くん、秘密基地に行こう」  そう誘ってきた。 「うん」  何も考えずに秘密基地に向かったが、いま思えば、藍の表情は暗く沈んでいた。  秘密基地の前の藪に着いて、草木を押し開いて歩いていって、いつもの定位置に落ち着いたときだった。 「僕、引っ越しするんだ」  突然、藍がそう言った。

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