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第6話
「え……」
突然のことで、それがどういうことかも分からず、俺はただ茫然と藍を見上げた。
藍はいつも座っていた石から立ち上がり、俺の目の前に立って、足を止める。
いつも屈託なく朗らかな藍が、その日は目を合わせてくれず、沈鬱な面持ちで足元を見ていたのを覚えている。
「僕、引っ越すんだ」
「引っ越す?」
「転校するんだ」
そこまで言われて初めて、俺と藍の関係は終わりがくるのだと知った。
「え……」
本当はいつだとか、どこに行くのだとか聞くところだろうが、ただ真っ白になったまま、俺の思考は停止していた。
「1週間後。僕、夏休みが終わったら……別の学校に行くんだ」
「近くの……?」
その言葉を絞り出すだけでやっとだった。
また遊べることの確認を意図した質問だったが、その時、藍の瞳に涙が浮かんでいるのに気がついた。
やがて藍は、大粒の涙を流しながら、ゆっくりと首を横に振った。
その時の藍のどうにもならない絶望感で揺れる瞳は、きっと俺も同じだったのだろうと思う。
「ずっと遠くって。お母さんが、ここから遠くの外国に行くんだって」
外国に――……?
もうその時は、何も言えなかった。ただ唖然として、涙をぽろぽろと流す親友を見上げるしかできなかった。
不思議なもので、遊べるときは毎日遊べていたのに、藍から転校を告げられた次の日から、お互い用事が重なり、なかなか会えなくなった。
藍が引っ越すという2日前、今日こそは絶対に藍に電話をして会おうと思っていたのに、急に母親から病院に行くと聞かされた。
「僕も行かなきゃいけないの?」
俺は不満をあらわにしたが、母親からお婆ちゃんが入院したんだから当たり前でしょと一蹴され、何も言い返せずにうつむいた。
「藍と遊びたい」
出発する間際、何度も母親に必死になって訴えたが、幼い俺を家に1人にすることはできないと言われ、結局隣の市の病院に行く母親に帯同することになった。
病院に到着すると、母親は祖母の身の回りの世話や医師らの説明を聞くことに忙しく、予定の帰宅時間を大幅に超えて、1日近く病院にいることになってしまった。
日もとっぷりと暮れてから、家に着いたのを覚えている。
もう明後日が藍の引っ越しの日だというのに、今日も藍と遊ぶことができなかった。
その夜、涙で枕がべちゃべちゃになるくらい泣いた。
藍になかなか会えない寂しさ、思い通りにいかない歯がゆさと、変えることのできない現実への悔しさ、いろんな感情が一気に押し寄せて、どうにもならないこの状態がもどかしく、涙が止まらなかった。
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