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第一章 3

   その集団が僕の前を通りすぎるのを、顔を伏せがちにしてこっそりと見ていた。  あれ……今の……  一瞬わからなかった。もう一度見直した時には、後ろ姿だった。  でも。あれは、きっと  その時、不意に彼が振り返った。  顔を食い入るように見る。    いっくん……!   顔少し変わった。  背も高くなった。  彼は何にも興味を示さない表情ですぐに前を向いて歩いて行ってしまった。  入学式には見かけなかった。そう言えば、あの集団もいなかった。入学式だけじゃない、二週間の間一度も。  まさか、同じ高校に入ってたなんて。  どうしよう  今度会ったら、声かけてみる?  あの頃のように、話せる?  少しわくわくして、でも、すぐに落ちた。  そんなことができる筈はない。  ほんの目と鼻の先に住んでいたんだ。そんなことができるなら、とっくの昔に元のように戻っていたに違いない。  その後一日中もんもんとして、そして、夢にまで見てしまった。 ★ ★ 「ななせ~おはよ~」  校門を過ぎてからとぼとほ次第に歩みが遅くなっていた。周りを見ることもなく視線は足許にあった。  突然の元気な声。バンッと背中を叩かれたかと思うと、ぐいっと肩を組まれた。 「日下部(くさかべ)くん」 「なんだよ~。大地(だいち)って呼べよぉ。友だちだろ、水臭いなぁ」    まるで昔からの友だちのように言っている彼と出会ったのは、二週間前の入学式の日だ。   同じクラスの隣の席。  座った途端、こんな調子で話しかけてきた。   出会ってすぐに僕を『七星』と呼んだのは、彼で二人目だ。    一人目は……  人見知りの激しい僕が自分から話しかけられる筈もなく、当分友だちはできないことなど覚悟の上だった。だから、この『日下部大地』という存在は本当に予想外。  全くタイプの違う彼が何故僕なんかと友だちになりたいのか不明だけど。  ああ。  そう言えば、も、そう思ってた……  陽キャの彼は、もう既にクラス中と友だちになっているような感じだ。そのお陰で、中には僕にも気安く声をかけてくれるクラスメイトもいる。  僕にしては、良いスタートかも知れない。    でも、さすがに、まだ大地って呼べない…… 「なーなせ?」  僕の顔を覗き込みながら、大地の手が伸びてくる。近すぎて何をしようとしているのか把握できずにいると、さわっとその指先が前髪に触れた。 「な、な、な、なにっ」  咄嗟にその手を払って前髪を両手で押さえる。そうしてから、はっと相手の顔を見た。 「ご、ご、ごめっごめっ」  慌てて謝ろうとしてどもってしまう。  気を悪くしたろうか。 「びっくりさせちゃったー? 前髪に桜の花びらのない奴? ついてたよ」  

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