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第一章 4

 何処の学校でも大抵植わっているのでは、と思わせる桜。この学校でも、外塀に沿って桜が植わっている。  塀の外側を歩いている時か、校門を通った時についたのかも知れない。  白い花びらの散った額だけの。紅い、また別の花のような桜。  花柄(かへい)を指先で摘まんで、僕の眼の前でくりくりと回す。  全く気にもしていない笑顔に、僕はほっとした。  いつかは……わかることだけど……。  でも、なるべく、引き伸ばしたい……  僕は軽く前髪を整え、そこから手を離した。  立ち止まった僕を歩かせるように、大地が肩を組んだまま、ぐいっと前へ押す。  なんか、顔ちか……。  お互いまだまだ発展途上中で、背の高さが同じくらいなのだろう。顔が間近にあった。  誰かと密着するなんて、久しぶりだ。  いっくんとも、こんなふうに。 『もう、しょうがないなぁ。ナナは』  いつまでも追いつかない僕を、最後には待っていてくれた。それから、肩を組んで一緒に歩く。  確か小学校低学年まで同じくらいの背丈だった。それから少しずつ間近にある顔の位置は、ずれていった。  日焼けした肌。ガキ大将のように元気で。屈託なく笑う。  大地の何もかもがその頃の樹を思い起こさせる。そう思う(たび)、温かいような、切ないような気分になる。 「あ……」  ぼんやりと考えごとをしていたせいで、大地と歩調が合わず足が縺れてしまう。  よろめいたところを、どん……っと誰かにぶつかった。 「すみませ……っ」  慌てて謝りながら顔をあげると、オレンジ色の髪の背の高い男が、僕らを見下ろしていた。    あ……昨日の……。  派手な集団の中にいた一人だった。 「ああん?」とでも言いたげな険しい顔。でも、一瞬で崩れにやにや笑いをする。 「あー仲良しこよしでちゅかー。だめでゅよー、ちゃんと周り見なくちゃー」  得体が知れなくて、余計怖くなった。 「七星」  大地が僕を庇って前に出ようとした瞬間。 「カナ、絡むな」  押さえぎみの低い声が飛んできて、間に入ってきた人物がいた。  いっくん?! 「お前……」  今度は完全に僕を見た。間違いなく僕のことがわかった表情をしている。 「……なんでここに」  口の中で小さく言い、その後ちっと舌打ちをするのまで聞こえてきた。  胸がぎゅっと痛くなる。  やっぱり……会いたくなかったのかな。  僕のこと……きら……い……になった……?   ほんの数秒の出来事が僕を完全に落ち込ませた。つん……と鼻の奥が痛くなる。

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