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第五章 3

(え……)  顔を上げて声のしたほうを見ると、樹もこっちを見ていた。    見つめ合う。 (話かけても……平気?) 「あの……」  話すことは何も考えてなかったけど、声をかけようとして。 「あれ~~見つめ合っちゃったりなんかして、二人は知り合いなのかな~」  能天気な声とと共に、ひょいと顔を覗かせる。   「わっ!」  また吃驚して声を上げてしまった。  どうやら、樹の向こう側にいたらしい。全然見えなかったけど。  彼に邪魔され、樹はもう別な方向を見ていた。 「こんにちは~」  のそっと立ち上がり、にやにや笑いながら僕と樹の間に入って来る。  オレンジ色の髪。長い前髪を今日は黒くて細い波形のカチューシャで上げていた。  いつ見かけても、たいがい樹の傍にいる男子。  自分からは話しかけられないくせに、いつも一緒に笑い合っている彼にもやもやしていた。  かなり親しそうで中学からの知り合いなんだろうなと思っていた。  前回の体育の時にはいなかったかが、やはり同じクラスだったらしい。 (同じ……。  ……ん?) 「二年生……?」    彼が着ているジャージは、二年生の学年カラーの臙脂色。  臙脂にオレンジの髪は、派手すぎる。 「は~い。二年生になり損ねた金森(かなもり)くんでーす。だから、キミと同じ学年だよ~。よろしくね~」 「あ、はい。よろしくお願いします」  軽いノリに思わず返事をしてしまう。 「ジャージはぁ、勿体ないし、このままでいいかなーって。センセイもなんも言わないし」  訊いてもいないのにべらべら喋る。 (気に……ならないんだな。  一人だけ違うって、目立っちゃう。  僕には絶対ムリ) 「キミはぁー、えっとぉ、てん……の、くん?」  ジャージの上着の胸の辺りには、名字が同色で縫い取りしてある。彼はそれを見て言っていた。 「あの……天野(あまの)です」  小さい声で正す。  見た目が怖くて、気に障わらないようにしたほうがいいのかと悩む。 (それにしても)  (もここを受験して入ったんだよね?  それとも、入学した途端、デビューとか?  いやいや、見た目で判断しては……) 「きゃっ、そんなに見つめられたら、照れちゃう~」  ぱっと両手で頬を覆う。ひょろっと長身な彼に似合わない、きゅるんと擬音をつけたくなるような仕草だ。 「あ、ごめ、ごめ、んなさい」  つい繁々見てしまっている自分に気づき、慌てて謝って視線を反らす。 「いいよぉ。もっと見て見て~。んとぉ、お名前のほうは何て言うの?」   『知らない人に付いて行ったり、名前教えたりしちゃだめだよ』  小学校に入って鍵っ子になった時に母が言った言葉。三、四年生頃まで何度も繰り返していた。  金森が不審過ぎてその言葉が、浮かんできてしまったのだろう。 (でも、同級生だし。  うん、おかしくない)  そう自分を納得させて。 「七星です」 「ふぅん、ななせくんて言うんだー。ななちゃんか、かわいーね」

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