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第五章 5

 僕がメイさんと話してたからかな。  いっくんとメイさん、すごく仲いいみたいだし。  いっくんは、僕のこと……嫌いみたいだし……。  嫌いな僕が、メイさんと話すのがイヤなのかも……。  想像でしかないけど。  次々と連想されていくことに、気が滅入っていく。  僕は大きく息を吐いた。  そうでもしないと、自分の想像に溺れて窒息しそうだった。 「あ……」  急に周りが見えてくる。  皆が短距離走やハードルをやっている姿が。  さすがに授業に戻らないとどやされる。  立ち上がってグランドのほうに向かうと、大地がこっちに歩いて来るのが見えた。  大地も気がついたらしく、軽く手を振りながら走って来る。 「七星。もう大丈夫?」 「あ、うん。もう平気」  心配そうに顔を覗き込んでくる彼の額に汗が光る。  四月だけど、今日は暑い。ジャージの上着を脱いだ大地は、それでも暑そうにTシャツの襟ぐりをぱたぱたしている。 「今さー金森先輩いたよなー?」  さっき明と話していた場所をちらっと見る。 「うん。──日下部くん、メイさんとも知り合い? あ、中学同じだっけ」 「知り合いっていうか──有名人だから?」 「ん?」  なんか、どっかで──。  あ、そういえば。  いっくんの時も。 『有名人』って言ってた。  そして、心なしかその時よりも苦々しい表情をしている。 「?? ねぇ……有名人って……。いっ……城河くんとメイさん、学年違うけど、中学の時から──」 「それよりさー」 「えっ」 「七星こそ、金森先輩と知り合いなの?」 「ううん。今日初めて話したけど?」 「え! じゃあなんで『メイさん』て呼んでるのさー」  かなり食い気味。  気圧され、気持ち後退る。 「えーっと……『メイ』って呼んでって言われたから」 「俺だって『大地』って呼んでって、言ってるじゃん! 金森先輩だけ、ずるいっ」  なんか怒って……。 「メ……金森さん、ちょっと圧が強くて」  実際そうだけど、少し苦しい言い訳。  あんなチャラそうな感じなのに、明には抗えない何かがあって、それを説明するのは難しい。 「今更、言い換えても遅いっ! 俺のことも『大地』って呼べよ~」 「おーい! そこ、何やってるー!!」  遠くから先生の声。  二人顔合わせて、 「やべっ」 「いけないっ」  同時に言って走りだした。  ああ……。  また『有名人』について話を聞き損ねた……  樹が、ついでに明が、どう『有名人』なのか。  学年の二人の『有名人』は、どういう繋がりがあったのか。  気になって仕方がない。  でも、何故か。  詳しく聞こうとするとはぐらかされているような気がした。  そして。  『日下部くん』のことは、『大くん』と呼ぶことになった。  

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