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第六章 1

 ** 第六章 ** 「ななちゃーん、おはよー」  校門を入ると、遠くで明が手を振っているのが見えた。  小声じゃ聞こえないし、声を張り上げる勇気のない僕は、ぺこりと頭を下げた。  あれから。  やたら明に声をかけられるようになった。  中学同様地味な学生生活を送るであろうと思っていた高校で、僕の周りはにわかに騒がしくなる。  明に遠くから声をかけられたり、近くで話しかけられたり。その度に周りが騒がしい。  視線が痛い。羨望や嫌悪、様々な意味を持つ多くの視線だ。  そして、明の隣には、ほぼ樹がいる。  そのせいで、それまでの『樹を避ける』という行動は意味がなくなった。  ただ──僕を見る樹の顔が、いつも怖い。  何かにつけて明を連れて、さっさと行ってしまおうとする。  これをどう解釈するべきか。  やっぱり、嫌われてるのかな……。  明とは話しかけられれば答えるが、樹とは相変わらず話もしない。  でも、全く会わなかった中学時代を思えば、随分と身近に感じている。  だから。  本当は話したい。  あの頃のように、また……。  そんな気持ちは、やっぱり、僕の中にあるんだと思う。 「すっかり懐かれたなぁ、金森先輩に」 「大くん」  真後ろから声。  吃驚して振り返る。 「おはよー、七星」  そう言って隣に並んだ。 「おはよう」 「でも。気をつけたほうがいいよ。あの人あんなんだけど、怖い人だから」 「怖い?」 「や、金森先輩や城河はまだいいんだけどっ。」  他にも。  そうだ。  同じクラスの樹と明はいつも一緒にいる。でも、たまにもっと大勢でいることもある。高校で最初に見かけた朝のように。その中には、上級生も混ざっている。  確かにその時は、あの時感じたように近寄りがたいような、いつもと違うオーラを感じる。 「大くんて、メイさんのこと嫌いなの?」 「好きなわけないじゃん」  めちゃくちゃむっとした顔になる。大地は、僕が『メイさん』と呼ぶ度にこんな顔をする。  そして、樹が明にするように、明が話しかけてくると僕を連れ去ろうとする。 「なんかあるの?」 「なんか……」  理由を訊くといつも黙る。 「とにかく、あの二人といると目立って危険だから」 「危険て、そんな……」  大げさだなと思って、ついくすっと笑ってしまったら、大地の顔が更に怖くなった。 「笑い事じゃないし! もし、何かあったら俺に言えよ。七星のことは、俺が守るからっ」  ぐっと肩を抱き寄せられる。  こういう感じ、ほんと、昔の樹に似ているな。  なんだか、擽ったい気持ちになった。

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