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第六章 3
溜息が出そうになって慌てて止める。
なんか、最近溜息ばかりだなぁ。
ふと、視線を感じた。
僕の横顔を大地が見詰めている。
「なに? 顔に何かついてる? ご飯とか?」
「えっ」
自分の行動にはっとした。そんな表情をしている。
「あっ、やっ、なんでも……」
また顔が朱くなった。
「さっきから顔朱いけど、熱でもあるのかなー」
手を伸ばして大地の額に当てようと手首を掴まれた。そのまま「大丈夫、大丈夫」と手を振る。
「それよりさ」
「う、うん?」
かなり前のめり気味になってくる。
「前から気になったんだけど、前髪長くない? もうちょっと切ったらいいのに。せっかく、可愛い……じゃなくてっ。これから暑くなるしな!」
前髪に手が伸びてきて──。
「った!」
「わっ!」
同時に叫んだ。
僕が避 けようとしたのと、大地が前のめりになり過ぎたのとで、後ろに倒れてしまう。
テラスはコンクリートではなく人工芝で、怪我はしないだろうが、それなりに後頭部に衝撃はあった。
一緒に倒れ込んできた大地の重みを、ぎゅっと目を瞑って耐えた。
「ごめんっ」
慌てて上体を起こしたのを感じて、僕も目を開 いた。
片手は繋がれたままで、上から見下ろされている。
──見詰め合ってしまった。
んん?
なんだろう。
この展開。
少女漫画みたいな。
でも、僕が相手じゃあねー。
「ごめんっ大丈夫?」
心なしか声が上擦っている。
顔も真っ赤だ。
まぁ。
男同士でも、これはちょっと照れるよね。
「うん。大丈夫だよ」
そう答えたけど。
大地はそのまま固まっていた。
視線が……。
「あ……」
彼の視線は額にあった。
今のばたばたで、前髪が乱れたらしい。
気まずい空気が流れた。
「やだーなにやってんの~~」
素っ頓狂な声がその空気を破ってくれた。
「メイさん」
上から顔を除かせる。
オレンジ色の髪を、今日はゴムで下側に結わいていた。
「げっ」と変な声を上げて、大地が僕の上から飛び退いた。それから、明と僕の間に座る。肩で僕を押すので、徐々に明から遠ざかる。
「なになに。ひょっとして、お邪魔だったかな~。キミたちそういうかんけーなの?」
と訳のわからないことを言う。
「そんなんじゃねぇですっ」
大地には意味がわかったらしい。
「冗談だよぉ。そんなおっかない顔しないで」
くすくす笑いながら、さりげなく間を詰める。
「でも、いっつも一緒にいるよね。仲良しさんだー」
「そういう、金森先輩も、城河といつも一緒じゃないっすかー。今日はいないんですか?」
「あ、樹は。今ね。二年の女子にもってかれたー」
「あ、告白タイムか。城河もてもてだな」
もてもて……。
どきんと胸が跳ね上がった。
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