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第六章 4

 そうなのだ。  樹はモテる。  この『告白タイム』の話を聞くのも何度目かだし、女子と歩いているのに遭遇したこともある。  樹の『仲間』のようなタイプの女子は勿論、大人しい感じの女子も密かに憧れている、そんな噂も耳に入ってくる。  小学校時代もけっこうモテていた。  今の樹がモテない筈はない。  あの頃と違うのは──何故だか、そのことに凄くもやもやしてしまう自分だった。 「城河今彼女いないのかなー。中学の時は取っ替え引っ替えだったじゃないすか」  取っ替え引っ替え?!  大地の言葉にびくっとする。  聞きたくないような、でも、すごく気になってしまう。 「あれ? キミ同じ中学?」 「そうですよ。残念ながら」 「どういう意味かな~。そういや、最初から『先輩』とか言ってたもんね」  和やかに話しているようで、何処かぴりっとした空気を感じる。特に大地のほうに。   「あ、ななちゃんも気になる? 樹のこと」  急にこっちに話が飛ぶ。樹の話が気になっていたことがばれてたらしい。でも僕は慌てて首を横に振った。 「ななちゃんて、やっぱ、樹と知り合いなの?」 「え……あ……」  大地もじっとこっちを見ている。 「……家が近所で……小学校が一緒だっただけ」  なんで言えないんだろう……。  すごく、すごく。  仲良かったんだって……。   「そう?」  明はたいして気にしてもいないみたいだが、大地のほうは何処か納得しきれていない顔をしている。僕は彼の視線を避けた。 「や~あれはさー」  明の調子外れな声が微妙な空気を散らす。 「そういうんでもないんだよ~。告白されたからつき合う。でも、いつも好きにはならないから大事にしない、そんで、結局告白して来たほうからフラれてんの。勿体ないよね~」  そう……なんだ……  なんとなく、ほっとしていまう。  それも何故なのかわからない。 「へぇー、良く知ってますね。そういえば、学年違うのに何故かツルんでましたよね、金森先輩」  大地も元の調子に戻った。 「やだなー、メイとかカナって呼んでいいんだよ? それに同級生なんだし、敬語とかなしでいーよ」  僕もだけど、元々同じ中学の先輩後輩だった大地は、口調はつんつんしているものの、とりあえず敬語を使っていた。 「誰が呼ぶかっ」  それが崩れる。 「キミさ、『だいくん』だっけ? ボクにやけに突っかかってくるよね? なんかあんの?」 「べつに! それから! あんたに『だいくん』なんて呼ばれたくないからっ」 「つめたっ。ボク傷ついちゃうよ~」  そう言いながら、全く傷ついてもいないようで、はははと笑う。  なんとなく落ち込んだ気分で人工芝を見詰めていた。  その視界に指の長い綺麗な手が。  顔を上げると、大地の隣にいた明の顔が目の前にあった。 

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