31 / 156

第七章 1

 ** 第七章 **  煩いくらいに聞こえる蝉の声。  夏の風で揺れるレエスのカーテン。  二つある窓は両方とも開け放してある。  そこを通り抜けていく風で、暑さを凌ぐ。  そんな、夏の昼下がり。    夏休みに入って一週間が過ぎた。  部活にも入らず、バイトもせず、塾にも行っていない僕は、家からほぼ出ていなかった。 「バカだな。渡せる筈ないのに」  自室の机に臥せて顔だけを上げる。  すぐ目の前には、リボンのかかった長方形の箱。  僕はそれを指先で弾いた。  ──明日は樹の誕生日だ。  そして、今日、七月三十一日は僕の誕生日。  樹と一日違い。  出会った年はもう、誕生日が過ぎた後だった。一日違いだと知ってから、翌年の誕生日が来るのを二人とも楽しみしていた。  一緒に祝おうと。  それから十二歳の誕生日まで、ずっと一緒にお祝いしていた。お互い(ささ)やかななプレゼントを用意して。  僕が樹にあげたもの。  樹の好きなヒーローもののパッケージのお菓子。ガチャ。消しゴム。カップ……。  樹が僕にくれたもの。  蝉の脱け殻。生きているバッタ。庭に咲いた花。海で拾った……。引いてしまうものもあった。  くすっと笑みが浮かぶ。  でも蝉の脱け殻は箱の中に、花は押し花にして取ってある。  それから、シャープペンシル。何故か樹自身が好きなキャラクターのもの。今はもう使えない歳になって、でも、大事にしまってある。  中学の三年間。そして、今。  渡せないとわかっていながら、用意しては、机の引出しにしまってある。  何をあげていいのか、もう、わからなくなっていた……。  樹の好きなもの。欲しいもの。  何もわからない切なさ。   貰ったものも、上げられなかったものも、みんなみんな一緒に、机の引出しの中。  組んだ両手の上に顔を伏せた。 ★ ★ 「──あ、ここかなー」 「え~~ここが、ななちゃんちなの?」  にわかに外が騒がしくなった。 (あ……大くんかな?)    スマホを見ると、今日誕生日を祝うと言ってくれた大地との約束の時間だった。  事前に住所と軽く場所の説明をしてあった。 (あれ? でも。  誰かと喋ってる?  あの声って) 「たぶん。『天野』って書いてあるし──って、なんか驚いてます?」 「え、だって。あそこ、樹の家」 「えっ。城河のっ?!」  という会話聞きながら、南側の網戸を開ける。ここからは、玄関先が見える。  もう一つの声の主のオレンジ色の頭が見える。 (やっぱり、メイさん!  え、なんで)  網戸を閉め、慌てて部屋を出る。  階段を下りてる途中でピンポーンとチャイムが鳴った。  

ともだちにシェアしよう!