32 / 156

第七章 2

 いつも母には怒られるんだけど。  インターフォンで確かめてから出るんだよって。  相手が分かってるからいいだろうと、無視して玄関から飛び出した。   「びっくりしたーっ。あ、ななちゃんの私服姿見ちゃった。新鮮っ!可愛い~」 「え、かわ……」 (かわいい……って。  僕、男なのに)  でもなんか悪い気はしない。 (あれ?   大くん、めちゃメイさん睨んでるけど、どした?)  それにしても。  それはこっちの台詞。  明も大地も、制服やジャージ以外の格好を見るのは初めてで、それだけでぐっと親しくなったように感じる。  明は黒のタンクトップに黒のダメージジーンズ。二、三箇所切れ目が入っている。それに、透け感のある白い半袖シャツ。制服よりもスタイルの良さが際立って、格好いい。  大地は、白のTシャツに、クロップド丈のライトブルーのジーンズ。ブルーの格好いいスニーカー。夏の青空みたいに爽やかな大地に良く合っている。 「でもね、ななちゃん。急に出てきちゃダメだよ。ちゃんと確かめないとね」  メイさんが母みたいことを言う。 「なんで、メイさんが一緒に?」 「コンビニで会った」  そう言って大きめのビニール袋を軽く持ち上げた。  同じ小中に行っていた二人が同じコンビニを使っていたとしても可笑しくはない。  それがたまたま今日だったというだけ。 「ななちゃんのお誕生日だって言うから。これはお祝いしないとねー」 「勝手についてきただけだから、もう帰すから」  心底嫌そうな顔をしている。 「だいくん冷たっ」 「大くんって言うなー」 「大くんいいよー。せっかく来てくれたんだから」 「えー」  祝われる当人よりずっと不満気。  でも、この二人なかなか良いコンビのように思える。 「メイさんありがとうございます。二人ともどうぞ」 「おじゃましまーす」  同時に言う。 (ほら、やっぱり)  二人とも玄関に綺麗に靴を揃えて中に入ってくる。  背の高い明は引き戸の上枠を少し頭を傾けてくぐる。  樹より確か少し高い筈。  でももし樹が今来たとしたらこんな感じかも知れない。 「ねぇ、ななちゃん。お線香上げさせて貰ってもいい?」  ふと気がつくと、明は真っ直ぐ進んだところにある仏壇の前にいた。  上と下に収納がある、ぽっかり空いた空間。もとは電話が置いてあった場所。そこに小さめの仏壇が置いてあり、父の写真が飾られている。 「ありがとうございます」  僕がそう答えて蝋燭に火をつけると、明は線香を一本手向けてくれた。それに習って大地も。  細かいことを聞かないのは明の優しさか。  見た目や最初の印象とは違い、物凄く気遣いのできる人だと思う。 『怖い人』と言った大地の言葉に納得できる部分もある。いつもの調子の良い明とは違う口調だったに感じた。  僕の知らない面をたくさん持っていそうだが、でも今のこんな明もけして嘘ではないと思う。

ともだちにシェアしよう!