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第七章 3

 にゃあ。  何処にいたのか、階段の下に姿を現したティラミスが二人を見ている。初めての客人に少し警戒しているようだ。 「あ、ひょっとして、ティラ?」  大地には時々ティラの話をしていた。 「そうだよ」 「可愛いなー」  近づいて行くが、ティラは大地の足許をすり抜け、明の足に擦り寄った。 「かわいーねー。お前。ボクが好きなのー?」  屈んで頭を撫で、顎を撫で、ごろごろ言い始めたところで抱き上げた。 「えっなんでっ」  それを呆然と大地が見ている。 「ネコチャンも、人を見るんだね~」  挑発するような表情で言うと、「ふんっ」と大袈裟に腕を組んで鼻を鳴らす。 (メイさん。楽しんでるな)  明は大地を揶揄うのが好きみたいだ。 「そう言えば樹も猫好きだよね~。道端にいるといつも傍に寄ってく。あんな可愛いげのないヤツだけど、あれはちょっと可愛いな~って思っちゃうよ」  こっちを見てにこにこしている。 (なんで、そんな顔するの。  でも、そうかぁ。いっくん。  今でも猫好きなんだ)  ティラもああやって、いつも樹の傍に寄って行ってた。  樹もティラが好きだった。  今の明を見て懐かしく、そして、切ない思いが(よぎ)った。 「あ、こっから樹の家が見える~」  南側の窓から明が外を覗いていた。 「ななちゃんちとこんなに近くだったなんて。ボク前からななちゃんち見かけてたんだ~。これは運命かな」  最後にハートマークがついてそう。 「そんなわけあるか」  ぼそっと大地。何か気に入らないみたい。 「メイさん、いっ…………城河くんの家に行ったことあるんですか?」  さりげない風を装って訊いてみる。 「ないよ~。樹、家には上げてくれないし。ボクが勝手にここまでついてきただけ~」 「そうなんですか」  心の中で何故かほっとしている自分がいた。 「金森先輩、とりあえず座ってくださいよ。乾杯、乾杯」  そう言いながら、自分で買って来たペットボトルの紅茶を三人分グラスに注いでくれる。  なんだかかんだ言って明のことも、ちゃんと認めている大地に、ほっこりとする。 「はーい」  自室にある小さめのローテーブルには、大地の買ってきてくれたお菓子と飲み物が並んでいる。  それぞれグラスを持つ。 「七星、十六歳の誕生日おめでとう! それから、俺と七星の出会いにも! 乾杯!!」  シャンと軽くお互いのグラスに当てた。 「えーなんでーボクも混ぜてよ~」 「誰がっ」 「ほんと、つめたっ」  二人の遣り取りについくすっと笑ってしまう。  家族以外と誕生日をお祝いするのなんて、十二歳の誕生日以来だった。 (あの時は、いっくんと……)  そう思うと、また胸がきゅっと痛む。  樹がいなくなって、一人でもいい。そう思っていた。でもやっぱりこうして友だちに祝って貰えると嬉しいものなんだと感じた。

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