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第十章 2
それをまったく何でもないことのように言って退ける明は、僕とは全然違う人種。『大物』とも思える。
しかしその軽さに大地は更に憤ってる。
「なにっ、それっ。信じられないっ。もう、あんた、やだっ。近づくなーっ」
「だいくん、つめたっ」
留年したこと、見た目、で判断してしまい、大地の言ったことは半信半疑であったが、その後の定期テストで正しかったことが判明した。
一学期中間期末、二学期中間どれもトップだった。
それはそれで。
「だからっ。なんで、最初からちゃんとやらないんだよーっっ」
お弁当を飛ばしそうな勢いで、ご立腹の大地だった。
それを明はスルーして、僕に話しかける。
「ななちゃんも上位だよねぇー。ななちゃんこそ、N高校受ければよかったんじゃないのぉ?」
明に訊かれ、僕はぶんぶんと頭を横に振った。
「絶対受験の時失敗するって思って。緊張し過ぎて会場にすら行けないかも……T高校を見下してるってことじゃなくて。……ここでも、もういっぱいいっぱいだったんです……」
だいたい僕の性格を把握している明が、何も言わず頭を撫でた。
「樹とは正反対だねー」
「いっくん?」
「樹……小学校の頃、勉強ダメだったでしょー」
にやにや笑いをしている。
これは答えていいことなのか。
樹は今日は傍にいないけど。
「アイツ、ほんと、運動神経しかないヤツだったからねー」
今度はガハハハッと大笑い。
僕は昔、勉強を教えてたを思い出していた。
「中三になってT高校に行きたいから勉強教えてくれって、ボクに頼み込んできて。樹がボクに頼みごとするなんてないからさー。けっこう必死だったんじゃなぁい? ボクも必死だったよぉ。ダメダメ過ぎて~」
我慢して聞いていたが、遂に笑いが漏れてしまった。
「でも……樹頑張ったよ。ちゃんと合格した。なんで、そんなに必死だったのかは、わからないけどさ」
明の優しい言葉にじんする。
それを聞いていた大地も、ごちそうさまの手をしながら、
「やるじゃん、城河…………金森先輩も」
そう感心したように言う。あとのほうは不本意そうに、かなり小さい声になっていたが。
「でしょー! 樹に恩売ってやろうと思ってさっ」
あとがいけなかった。
「さいてーっっ」
ガツンッ。
お弁当の入った袋を振り回し、明の頭に当てた。
「いてっ。だいくん、ひどい~」
「ふんっ」
(大くん……それは、だめだと思うよ……)
★ ★
明が勉強を教えてなかったら、樹は今ここにいなかったかも知れない。僕が他の学校を受験していても同じこと。
(こうやって並んで歩くことなんて、一生なかったかも知れないな……)
一人感慨深く思っていると、僕らの間を歩いていた明が、突然肩に手を回してきた。
片方は樹の肩にあり、三人で肩を組んでいるような形になる。
「ところで、お二人さん、二十四日は何をしているのかな~」
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