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第十章 3

 唐突な質問だった。 「クリスマス・イブですね」  そう言えば、今日は十四日。クリスマス・イブまではあと十日だ。 「そうそう。それでもって、ボクちゃんの生まれた日なわけよ~」 「えっそうなんですか」  明の誕生日を初めて知る。  なんか、おめでた……。  いやいや。  クリスマスと言えばキリストの生誕の日。もとはもっと厳かな日のはず。  頭の中でいろいろ考えたことは顔には出さず、 「おめでとうごさいます」  とにこやかにお祝いの言葉を贈った。 「だめだめ~そういうのは、当日言ってくれなきゃ~」  子どもが駄々を捏ねているようだ。 「ってなわけで、二十四日は四人でボクちゃんのバースデーとクリスマスをお祝いしようじゃないか~」  語尾に重ねて、樹の声。 「俺はいい」  正に一刀両断。 「え~なんでさー。最近、も断ってるんだろー。どうせ、暇じゃーん」    お誘い……。  誕生日の翌日に城河家の玄関にあった、女物の靴を思い出した。  断ってるんだ……。  僕には全然関係ないのに、何だかほっとした気持ちになる。 「勝手に決めるな」 「冷たいな~今年もお祝いしてよぉ」 「祝ったことなんかない」  何処までも冷たい樹の態度にも、明はまったくめげない。 「じゃあ、決定ね! あ、だいくんにも伝えなくっちゃっ」 「おいっ俺はっ」 「じゃあ、ボクはこれで~」  バイバイ~と手を振って、校門を前にして戻って行った。  嵐のような人だ……。  嵐が過ぎ去った後は、当然しん……となる。  僕の横で樹の大きな溜息が聞こえ、身体がびくびくっと震えてしまう。  僕に対しての溜息ではないと思うのに。  いつも誰かしら一緒なので、樹と二人きりだと妙に気まずい。 「……最近……仲いいよね、大くんとメイさん」  余りの気まずさにどうでもいいことを言ってしまう。 「ん」  素っ気ない返事が返ってきて、やっぱり話さなきゃ良かったと思いつつ口は止まらない。 「メイさん時々大くんの練習見に行ってるみたいだよね。今日も見て帰るのかなー」  ははっと空笑いまで出てきてしまう。  視線はさっきから下を向いていて、樹の顔を見て話すこともできない。  もう。何言ってるんだろ。  溜息が出そうになっていると、 「あの二人…………」  ぼそっと頭の上から声が振ってきた。  顔を上げると、樹と目が合った。樹もてっきり前を向いて歩いていると思っていたので、どきどきしてしまう。 「え……あの二人……?」 「…………」  じっと僕の顔を見たまま黙っている。  えっ?  何なの? いったい。 「……何でもない」  そこで会話が途切れてしまった。    

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