47 / 156
第十章 3
唐突な質問だった。
「クリスマス・イブですね」
そう言えば、今日は十四日。クリスマス・イブまではあと十日だ。
「そうそう。それでもって、ボクちゃんの生まれた日なわけよ~」
「えっそうなんですか」
明の誕生日を初めて知る。
(なんか、おめでた……。
いやいや。
クリスマスと言えばキリストの生誕の日。もとはもっと厳かな日のはず)
頭の中でいろいろ考えたことは顔には出さず、
「おめでとうごさいます」
とにこやかにお祝いの言葉を贈った。
「だめだめ~そういうのは、当日言ってくれなきゃ~」
子どもが駄々を捏ねているようだ。
「ってなわけで、二十四日は四人でボクちゃんのバースデーとクリスマスをお祝いしようじゃないか~」
語尾に重ねて、樹の声。
「俺はいい」
正に一刀両断。
「え~なんでさー。最近、お誘いも断ってるんだろー。どうせ、暇じゃーん」
(お誘い……)
誕生日の翌日に城河家の玄関にあった、女物の靴を思い出した。
(断ってるんだ……)
僕には全然関係ないのに、何だかほっとした気持ちになる。
「勝手に決めるな」
「冷たいな~今年もお祝いしてよぉ」
「祝ったことなんかない」
何処までも冷たい樹の態度にも、明はまったくめげない。
「じゃあ、決定ね! あ、だいくんにも伝えなくっちゃっ」
「おいっ俺はっ」
「じゃあ、ボクはこれで~」
バイバイ~と手を振って、校門を前にして戻って行った。
(嵐のような人だ……)
嵐が過ぎ去った後は、当然しん……となる。
僕の横で樹の大きな溜息が聞こえ、身体がびくびくっと震えてしまう。
僕に対しての溜息ではないと思うのに。
いつも誰かしら一緒なので、樹と二人きりだと妙に気まずい。
「……最近……仲いいよね、大くんとメイさん」
余りの気まずさにどうでもいいことを言ってしまう。
「ん」
素っ気ない返事が返ってきて、やっぱり話さなきゃ良かったと思いつつ口は止まらない。
「メイさん時々大くんの練習見に行ってるみたいだよね。今日も見て帰るのかなー」
ははっと空笑いまで出てきてしまう。
視線はさっきから下を向いていて、樹の顔を見て話すこともできない。
(もう。何言ってるんだろ)
溜息が出そうになっていると、
「あの二人…………」
ぼそっと頭の上から声が振ってきた。
顔を上げると、樹と目が合った。樹もてっきり前を向いて歩いていると思っていたので、どきどきしてしまう。
「え……あの二人……?」
「…………」
じっと僕の顔を見たまま黙っている。
(えっ?
何なの? いったい)
「……何でもない」
そこで会話が途切れてしまった。
ともだちにシェアしよう!