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第十章 4

   気まずい空気のまま、それでも並んで歩いている。  もう話しかける言葉も思いつかないし、そんな勇気もない。口を開けば、また変な話題が飛び出しそうだし、これ以上気まずくなるのは辛い。 「あ、樹じゃーん」  後方から声がした。  微妙な空気を打ち破ってくれたのはいいが、けして歓迎できるものではなかった。  最近は一緒にいるのを見ない、樹の『仲間』の中でも少し怖めの三年生だ。  あっという間に数人に取り囲まれる。  最初に声をかけてきた金髪の三年が、親しげに樹の肩に腕を回す。  三年のこの時期にこの姿容は、受験はしないのだろうかと、思ってしまう。 「最近、全然俺らのとこに来ないよなぁ。授業も真面目に出てるみたいだしーどうしちゃったー?」  樹は彼の腕を素っ気なく払う。 「どうしてそんなこと知ってんのかわかんねぇけど。お前らにはかんけぇねぇだろ」  上級生に対してではない言葉遣いが、同等の力関係を感じさせる。 「なんだとっ」  そう息巻いたのは、他の生徒。二年も一年も混じっている。 「まぁまぁ」  と金髪男子が軽く周りを往なす。 「俺ら、これからオンナ連れて遊び行くけど、お前もたまには来いよ」  樹は無表情のまま首を横に振る。 「お前が誘いに乗らねぇって毎度俺が文句言われてんだけど」  そんな言いがかりにも何も答えない。  にこやかな顔で話しかけていた男も、ちょっと険しい表情になってきた。 「なんだー。今更真面目ちゃんかー。誘われれば他人(ひと)のオンナまで喰ってた奴が」  その言葉には、ぎょっとした。  昼日中の学校で話すような話題でもない。  樹の知りたくない過去がわかってしまいそうで、きゅっと胸も痛む。  明からも聞いていたが、言う人が違うと更に印象が変わる。もっと悪いほうへ……。 「そういやー、カナも来なくなったな。今日は一緒じゃねぇのか。お前らは今もつるんでるんだろ……ん?」  きょろと周りを見渡す目と、樹を見守っている僕の目が合ってしまう。  慌てて顔を下に向けるが、彼の視線が僕に注がれているのを肌で感じる。  なに……なんで、そんなに見るの。  興味持たれてしまった……? 「なんか、ずいぶんかーいーコ連れてるじゃん。お前とはだいぶタイプが違う」 「──関係ない。別に一緒にいたわけじゃ」  冷静な顔で答えているようで、何処か動揺が見える。  誤魔化せないと思ったのか言葉は途中で途切れて唇を噛んだ。 「あ、俺、こいつ知ってる~。城河の隣のクラスの奴だ。カナさんもこいつ構ってる」  そう言ったのは、一年の生徒。明のことは歳上の為、呼び捨てに出来ないらしい。 「俺も知ってる──あれだ! 『いっくん、僕こんな傷なんか、全然気にしてない!』とかなんとか」  ────僕はどうやら有名人らしい。  

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