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第十章 5

「なんだ、それ」  と金髪。 「こいつ、こんな顔して額に傷痕あるんすよ。それを可愛いピンでとめてぇー。城河の前で大声で言ってたんす。城河のこと、『いっくん』て呼んでた。なー」 「そうそう」  と一年二人がげらげら笑う。  やめてっ。  そんな説明いらないからっ。  あの時は樹に伝えてたくて必死だった。  周りが騒いでいたのも知ってる。  でも、改めて言われるとかなり辛いものがある。  今の僕の顔は、たぶん赤くなったり青くなったり忙しいだろう。 「やめろ」  樹が低い声で言う。  そのことも面白がって、 「お前『いっくん』て呼ばれてんの。『いっくん』なんて柄じゃねぇーよーなー」  さっき腕を払われたのに、また後ろから腕を回して樹の顔を覗き込みながら言う。 「どうでもいいだろ、そんなこと」 「ふぅん」  何を考えているのか。  しばらく樹の顔を見ていたが、にやっと笑って離れ──僕のほうに近づいて来る。 「キミさー樹と友だちなの? こいつ、めっちゃ悪いヤツよー」  あ、手が……。  僕の顔の前に手が翳されて、きっと前髪を上げようとしているんだと、わかる。身体がきゅっと縮こまる。 『あの時』のことを思い出す。  前髪を上げられ額の傷を見られる。それも確かに嫌だ。でもそれより人たちに上から威圧感的に覗き込まれるのは、その時のことを思い出して怖くて仕方がない。動けなくなってしまう。 「お前には関係ない」    ぎゅっと目を瞑っていると、樹の声が間近に聞こえた。  そろっと目を開ける。  樹の大きな背が目の前に見えた。  彼らから僕のことを隠している。 「もう行けよ」  短い言葉の中に樹の怒りを感じる。 「なんだとっ」 「お前、何様だっ」  周りは飛びかからんばかりの様子だが、金髪男子は逆に興味をなくしたようだ。 「ま、いいや。──行こうぜ。またな、樹」  一番力の強いらしい彼に言われたら他は何も言えない。こっちを睨みながら通り過ぎて行く。  最後に。  金髪の三年が、にやにや笑いながら。 「またね。かわいコちゃん」  明らかに僕に向かって言った。  それに僕はぞっとした。 「ナナ」  彼らが行ってしまうと、樹は僕のほうに身体を向けた。  上から見下ろされる。  樹にはこうされても全然平気だ。 「もし、何かあったら言えよ」 「え?」  心配そうな色がその瞳に浮かんでいる。僕に対しては今も無表情に近いのに、こんな顔をしている樹は珍しい。子どもの頃の樹みたいだ。 「彼奴らが──いや、他の奴でも、だけど。もし何かしてきたら、俺かカナに……」  明の名前を出したところで一旦言葉を切り、きゅっと眉間に皺を寄せる。 「いや。絶対俺に言えよ。お前のことは──俺が守るから」  ぐっと両肩を掴んでくる手には、白くなる程力が入っていた。 「いっくん……」  ぽ……っと。  心の中に温かな火が灯ったような気がした。  

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