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第十一章 3

 扉の向こうは──確かに、普通の家とは違っていた。  奥に筒抜けていて、ナチュラルウォークのテーブルセットが幾つかと、長いカウンター。  店内にもツリーやクリスマスの飾りつけがされている。  大きな窓からは庭が見える。  玄関側からは見えなかった庭にもイルミネーションが施されているようだ。    カウンターの奥には厨房が見え、白いコックコートを着た料理人が中で忙しそうに動き回っている。  そして、僕らが入って行くと。 「いらっしゃいませ」  の声が四方から飛んでくる。  一番扉に近い場所に立っていた白いシャツに黒のパンツ、黒のソムリエエプロンの背の高い男性スタッフが振り返る。 「いらっしゃいま…………」  軽く笑みを浮かべていたその顔が固まった。 「……あ、いっくん」 「…………」  沈黙して見詰めあってしまう。 「五時半に予約してるんですけど~」  明がにやにや笑いながら言うと、樹の眉間にくっと皺が寄った。 「予約ってお前かよー」  周りに聞こえないくらいの声は、それでも怒気を感じさせる。 「通りで店長、予約の名前言わない筈だよ」 「店長さんに内密でお願いしました~てへっ」 「てへっじゃねぇよ、バーカ」  二人でこそこそ言い合う。  その後。  何事もなかったように店内の方を向き、 「ご予約のお客様いらっしゃいました。ご案内いたします」  と声をかける。 「こちらです、どうぞ」  すっかりスタッフの顔に戻り、二階への階段を指し示す。  僕らが先に階段上までやって来ると、ささっとステーションにあるメニューを持ち、僕らの前に立つ。  二階は個室になっているようだ。  扉の数は四つ。  吹き抜けで廊下からは賑やかな階下が見える。 「こちらです」  一番突き当たりには『Stuff Only』というプレートが下がっていて、その手前の部屋に案内された。  部屋の広さは僕の部屋くらい。  奥にテーブルクロスとカトラリーがセットされたテーブルと、ゆったりしたソファー。  入口の横にはやはりクリスマスツリーが飾りつけられている。  明が率先してソファーに座り、僕と大地もそれに続く。  樹が軽く背を傾け、 「お料理はご注文頂いておりますので、お飲み物を」  メニューを開いて渡される。  アルコール……というわけには行かないので、それぞれソフトドリンクを頼む。 「承知いたしました」  そのまま去ろうとする樹に、 「樹もボクのたんじょーびお祝いしてね~」  と声をかける。 「仕事中!」  すぱっと切り捨てて部屋を出ていった。 「──忙しいから……って」  飲み物も料理も揃い乾杯も済まして食べ始めた頃を見計らって、そろっと口を開いた。  

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