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第十一章 4

「そう! 忙しいでしょ、で!」  悪戯が成功した子どもみたい顔をしている。 「そういう意味かよ~」 『忙しい』と聞いた時に同じことを考えていた大地は、また僕と同じことを思ったようだ。 「どういう意味だと思ったのかな~」  うふふと口許を押さえる。 「わざとだろっ」 「さっきも言ったけど、金森先輩いいんですかー?」 「何が?」  答えながらも、目はピザのほうに。手を伸ばして一切れ取る。 「たんじょーび、クリスマスときたら、家のほうでは盛大なパーティーでもしそうじゃないすか。社長さんの息子ともなれば」 「社長の息子さん?」  初めて聞いた話だった。 「え? 知らないんだ?」  逆に吃驚されてしまった。  僕は微妙な笑みを浮かべながら軽く頭を振る。 「この人ねーこんなんでも『KANAMORIフーズ』の社長の息子さん。学校でも有名な話だぜ~。『KANAMORIフーズ』は知ってる?」 「うん」  本社がK中とN中の間にある企業だ。  冷凍食品の開発製造から始まり、ファミリーレストランの展開もしている。  T高校の売店で売っているパンや弁当なんかもそうだ。知らないわけはない。  だけど、明がそこの社長令息だとは知らなかった。  僕の学校での情報網は大地と明しかいない。その二人が今まで口にしていなかったから、知る筈もない。 「不詳の息子ですからねー。他に立派な跡取りがいるんで、ボクはいてもいなくてもいいんですー」  明には珍しく自嘲気味な笑みを唇の片側に浮かべていた。 「…………」  一瞬重苦しくなった空気を払うようにパタパタ手を振る。 「そんなこといいからさー。はい、食べて食べて」  大地が僕を見ている。僕は小さく頷いた。  暗黙の了解。  僕らは明の為に今の話はなかったことにした。 「それにしてもーだいくん、ボクのこと詳しいよねぇ。好き過ぎでしょー」  とウィンク。  それをザクッと切るような仕草をして。 「そんなんじゃねー」  いつもの二人にほっと胸を撫で下ろした。 ★ ★  二時間食べたり飲んだり、主に明が馬鹿なことを言って笑わせたり、楽しく過ごしていた。  樹は時々現れては料理や飲み物を運び、空いた皿等を持って去っていく。  明が何か話しかけても、飽く迄も客とスタッフ以上には接しない。  すべてがスマートで格好良い。  とてもガキ大将だった樹とは思えない。 「カッコいいでしょ~」  向かいの席から身を乗りだして内緒話のように言ってくる。  樹が部屋を出るまでずっと目で追っていたのを見られていたらしい。  大地は今席を外している。二人しかいない部屋で内緒話することもないのだけれど。 「始めて四ヶ月とは思えない程の板のつきようだよね。ボクが紹介してあげたんだ。ここの店長ボクの親戚なんだよぉ」 「そうだったんですね。いっくんがバイトしてたなんて知らなかった──というか、今のいっくんのことは知らないことばかりなんだけど」  最後のほうはもう独り言のように小さい呟きになってしまった。  

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