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第十一章 5

「だいじょーぶ、だいじょうぶ。これから知ればいいんだよぉ」  よしよしと頭を撫でられる。 「なーに、やってんすかー」  大地がトイレから戻ってきて、僕の頭に乗っている明の手をぺちっと叩く。  僕の隣にどさっと座った。  部屋のドアが開いたことに少しも気がつかなかった。 「ってっ」と言いながら、明が離れる。 「樹がかっこいーよねーって、話」 「あー」  大地が口をへの字に曲げたまま。 「確かにかっこいいですねー」  不服そうに言う。 「今下行ったら、めちゃ女子に声かけられてましたよー」 「ここでバイト始めてあっという間に、樹目当てのコでお客さん増えたってって話だしね。大学生のおねぇさんたちからは、ずいぶんみたいだよぉ」  うん。わかる。  あんなにかっこ良かったら、もてるよね。  玄関にあった靴。放課後に樹の『仲間』が言っていたこと。  いろいろ思い出して、また胸がもやもやする。  何でもこんなふうにもやもやしてしまうのか。  樹ばかりもてるのが悔しいとか、そういうことではないのだけは、はっきりしている。 「背が高くてイケメンで、あのカッコはほんと、反則ですねー。俺とかがやってもああはならない」 「だいくんだったら、めちゃかわいーと思うけど」 「恥ずかしいこと言うな!」    二人の会話も遠くから聞こえて来るようだった。  それから一時間程して。  今、その『かっこいい』樹が、目の前にぶすっ垂れた顔で座っている。  さっきとは違って、制服のグレイのスラックスに、白いV字のセーターを着ている。 「はいはい。じゃあ、樹もこれ持って」  と、ジュースの入ったタンブラーグラスを渡す。  最後に樹が運んで来たものだった。 「くそっ。なんで……っ」 「店長に早く上がれるように頼んでおきました~」  遣ってやった感溢れる顔で言う。  どうやら勝手に時間を切り上げさせられて、ここに送り込まれたようだ。 「樹もボクのたんじょーび祝ってね」 「勝手なことしやがって。祝ってじゃねぇ」  そんな彼の言葉はスルーし、 「はいはい。みんなもグラス持って」  僕らにも促し、自分のグラスを掲げた。  僕と大地もそれぞれ飲みかけのグラスを持ち上げる。 「では~改めてまして~カナさんの十七歳の誕生日とクリスマスを祝って──かんぱーい」 「かんぱーい」  樹は結局乾杯には参加しなかった。  けど。 「──誕生日、おめでと。カナ」  明の隣でぼそっと言った。 「いつきぃ~~」  嬉しそうに抱きつこうとして、避けられる。 「一つオジサンになった」  ニッと笑う。 「それ、言う~?」 「しょうがねぇな。食ってやるか」 『しょうがない』と言いつつ、腹を空かせていたのかがつがつ食べ始めた。

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