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第十一章 6
「俺自転車だけど?」
午後十時。
クリスマス&明の誕生日パーティーはお開きとなった。
もともと十時までのシフトだった樹も、店長や他のスタッフに挨拶をして一緒に店を出る。
店を出て裏庭へ回ろうとした樹に明が言った。
「今日はバスで、ななちゃんと帰りなよ」
すぐ近所に住んでいる僕と樹は当然そうなるだろうと思っていた。
でも、樹の答えは。
「俺自転車だけど?」
(自転車だったのか~~)
「知ってるよぉ。樹が自転車通学だってこと。バイトの日は、こっちに置いて学校に来てるんでしょ」
(そうだったんだ……)
通りで樹と明と三人で帰るようになった時でも、樹が途中で僕らと別れて違う方向に行っていた筈だ。
てっきり僕と一緒に帰りたくないのかと思っていた。
「でも、今日はななちゃんいるじゃん? ボクらとは違うバスだしぃ。一人で帰らせるの危ないから~」
「え、そんな」
「男だから平気だろ」
僕もそう言おうとした。
確かにその通りだと思う。
バスに乗って帰るだけ。バスターミナルまでは明と大地も一緒。最寄りのバス停からは暗くはあるが、五分くらいで家に着く。
危ない要素なんて何処にもない。
だけど。樹からそれを言われるのは、何だかすごく寂しい気がした。
「何言ってんの。今時は男のコも危ないんだよぉ。特にななちゃんみたいな可愛くて、弱々しそうな感じのコは」
(何言っちゃってるの、メイさん)
「んー……わかった」
(えっ? 納得した?)
「帰るぞ、ナナ」
「いっくん、いいの?」
樹は何も答えなかったが、もう門に向かって歩いている。僕は慌ててその背を追った。
駅の北側バスターミナルで別れ、僕と樹、大地と明は、それぞれのバス発車場所に立つ。そこに行くまでも、並んでバスを待つ間も無言だった。ずっと樹の背を見つめている。
(やっぱり……自転車で帰りたかったのかな)
小さく溜息が漏れる。
十分程でバスが到着し、先に樹がバスに乗り込み奥から二つ目の二人席に腰を下ろす。普通だったらその横に座るだろうが、僕らの場合は違うだろう。
樹が座った席の前まで行くと、僕は通路を挟んだ隣の二人席に座る。
いや。実際には『座ろうとして』──だ。
僕は「なんでそっち」という吐き捨てるような声と共に腕を引っ張られた。
全く思いもかけないことで対処出来ず、引かれるまま樹の隣に収まった。その直前で運の悪いことに頭と頭ががつんとぶつかってしまう。
「ってっ!」
「いたっ。わ! いっくん、大丈夫?」
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