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第十一章 7

 自分の頭を押さえながら謝ったが樹は無言で窓の外を向いた。 「……ごめんね」  怒っているのかと身を固くして、もう一度小さい声で謝る。 「……平気」  僕と同じくらい小さい声が窓側から聞こえてきた。  いっくん……。  少しほっとしてもぞもぞ良い感じに座り直した。    DKが二人。しかも、一人はけっこう大柄。  二人席でも満杯で、腕が密着してしまう。  それを意識した瞬間から、何故か酷く緊張して、ぴんと背筋を立たせてしまう。  そのまま数分が過ぎ、ふと気がつくと、肩に重み。それから、頬に何やら擽ったいものが。  身体は動けないまま、視線だけを下に向けると、間近に樹の顔があった。  目は閉じられてる。 「いっくん……?」  小さい声で名前を呼んでみたが、反応はなかった。  寝ちゃってる……んだよね?  きっと。  じゃなかったら、こんなふうに僕の肩になんか……。  学校は半日だったとは言え、その後にバイト。  今日はクリスマスイブで普段よりずっと忙しかったんだろう。  加えて最後に僕らのパーティーにも参加して。  それから、僕と一緒に帰ってくれて。  変な気も遣わせたかも知れない。    寝かせてあげよう。    申し訳ない気持ちもあったし、寝かせてあげたかった。  僕は樹を起こさないようにじっとしていたが、心の中では妙に意識してしまっていた。  樹が身(じろ)ぎする度に擽ったい気持ちになり、自分の心臓の音がやけに大きく聞こえる。  何なんだろう。この気持ちは……。  嬉しいような切ないような。  友だちに肩貸してるだけ。寝顔見てるだけ。  それなのに。    普通、こんな気持ちになったりするのかな……。  これじゃあ、まるで…………。 「……いっくん、いっくん。もう着くよ」  降りる停留所の一つ前を過ぎたところで流石に樹を起こした。  ぱちっと目を開け、僕と目が合う。数秒、間が空いた(のち)に今の状況を把握したらしい。 「わっごめんっ」  珍しく酷く慌てた様子で僕の肩から離れて行った。心なしか顔が赤く、自分の前髪を整えるような特に意味もなさそうな行動をしている。  何だかお互い照れくさいような空気が漂ったところでバスが止まり、僕らは慌てて席を立った。 「寒いね」  降りて、僕の開口一番はそれ。  駅付近より少し高台にあるこの土地は、空気もより一層冷たい。 「あ……」   と小さく樹が声をあげる。  どうしたのだろうと横を見ると、彼は真っ暗な空を仰いでいた。 「雪だ……」 「え……」  僕もそれに倣うと確かに白いものがちらちらと舞っている。  この辺りで雪が降るのは滅多にない。 「……ホワイトクリスマスだね」 「まぁ、そこまではいかないと思うけど」  しばらく見上げていたけど、だんだん温まっていた手が冷たくなって。  僕は自分の手にはぁと息を吹き掛けた。 「手袋とかない?」 「うん。持ってない」 「急いで帰るぞ」  そう言いながら僕の手を握った。  ええーっ。  早歩きし始める樹。  驚いたまま手を引かれて、その歩幅に合わせて歩く僕。 「相変わらず、手ぇ冷た」  くすっと笑う。 「いっくんは、冬でもあったかいよね」  昔から樹の手はいつでも温かくて、僕は良く温めて貰っていた。  でも、今の樹がそれをしてくれるなんて。  クリスマスプレゼントかな……。  ポッと心が温かくなり、そして、その後はずっと。  家の前で別れるまで。  心臓が甘く音を立てていた。    

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