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第十二章 6
「はい、オレンジジュースね」
店長はそう復唱すると後ろを向いて準備を始めた。
「はい。どうぞ」
コースターをさっと置き、その上にオレンジ色に染まったタンブラーグラスを置いた。
「ありがとうございます」
小さい声で礼を言う。
店長は何故か僕の顔をじっと見ている。いたたまれなくなって視線を反らす。それを見咎められないようにストローに口をつけた。
(なんかまだ見られてるみたい)
飲みながらも視線を感じ、更にいたたまれない気持ちになる。
「きみ、クリスマスの時に来ていた、明の友だちでしょ」
「あ、はい」
顔を見ていた理由がわかったので、少しほっとする。
そろっと彼に顔を向けた。
「もう一人のコもそうだけど、きみみたいに普通のコがあいつの友だちってのは珍しいよ」
『もう一人のコ』は大地だなと思った。僕らはあの日この人とは顔を合わせてはいなかったけど、彼は見ていたのかも知れない。
「あいつ見かけはああだし、ちょっと歪んでるけど、心底悪いやつじゃないから。これからも仲良くしてやってよ。きみたちみたいなコといると安心するよ」
「メイさんはいい人ですよ」
親みたいな顔をして言う彼を安心させたかった。というのも少しだけあるが、これは自分の本音だ。少しだけ勇気をもって彼に告げる。
「そう。ありがとう」
嬉しそうに笑うので、なんだか照れてしまう。
「樹くんも──ちょっと歪んだところあるよね」
「えっ」
話は突然樹のことになる。ちょっとだけどきっとする。
「でも、熱さも隠れてる、明はそこに憧れたみたいで、振り向いて貰えるまで粘ってた」
それは明からも聞いたことがある。
それにしても。
(言い方! まるで、好きな女の子に対して言うみたいに)
何だかもやっとしたのはきっと気のせい。
「店長さん、良く知ってますね」
「あいつ家族とは全然話せないから、良くここに来てはいろんな話をしていってた。最近余り来ないのはきみたちがいるからかな」
「何やってんすか。ナナ、相手しなくていいから」
自然に二人で顔を見合わせて微笑み合っているところに、樹が割って入ってきた。
「樹くん、ひどいっ」
茶目っ気たっぷりに言うところが明に似てる。
「手ぇ出さないでくださいよ」
「何言ってるの? いっくん」
「ナナはわからなくていい」
(え、何それ。酷い)
何か言ってやろうと思ったら、チリンチリンと入口で音がして、樹はそっちに顔を向ける。
「いらっしゃいませ」
一変してスタッフに戻ってしまった。
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