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第十三章 1
──4月。
僕らは二年に進級した。
T高校の壁沿いに咲く桜に迎えられ、校舎までの道筋に散る花びらを僕は踏みしめて行く。
昨年の春、ここで樹と再会した。
もう一年が経ったのだと、感慨深く思う。
再会した当初樹には冷たくされていたけれど、少しずつ距離が近づいてる。
そう思っているのは、僕だけかも知れないが。
『また行ってもいい?』
樹にそう言ったけど、結局その後行くことはなかった。
学校帰りに制服で入る勇気もなく、かといって休みの日に行くことも出来なかった。それだと、ちょっとついでに寄ってみたという気軽さを演出することは出来ない。
いかにも樹に会いに来ましたという感じになってしまいそうで僕も気まずいし、樹もさすがに気持ち悪く思うかも知れない。
そんなわけで、いつも通り学校の中で会って、たまに会話をする。その程度のまま一学年が終わり、瞬く間に春休みも終わり今日に至った。
二学年のクラスの発表は、下駄箱前で配られているプリントにて行われる。
二学年の下駄箱に近づくと、大地と明がプリントを見ながら騒がしくしていた。
「おはよう、早いね」
「七星おはよー」
「ななちゃん、久しぶり~」
「どうだったクラス?」
明も今回は無事進級出来た。見た目とは違い、元々頭の良い人なので出席日数さえちゃんと取れていればなんの問題もない。
これは大地や樹のお陰かも知れない。二人と一緒に進級したいと思いが彼の中に生まれたんだろう。
ちなみに初詣の時に落ち着いた色になっていた髪色は、冬休み明けにはもとのオレンジ色に戻っていた。
「七星~クラス離れた~」
ぐずぐずと言いながら僕の肩に顔を押しつける。
「大くーん。それ、わかってたことだよ。僕文系で大くん理数系選択したでしょ」
頭を撫で撫でしながらそれでもきっぱり言う。
「そうだけどさー」
「ボクがいるから、いいじゃない~~」
明が大地に顔を近づけて言うが、見もせずに押し退けられる。
「カナ先輩はいらない~七星がいい~~」
「だいくんつめたいっ」
いつものパターンだ。
でも、気づいてしまった。
(ん? カナ先輩?
三学期終わりまで金森先輩って言ってなかった?)
ふと、見ると。
ぶつかり合ってる二人鞄に。
「なんか、二人とも可愛いのつけてる。色違いの海月?」
ぱっと焦ったように僕の肩から離れる。
「え、あ、これはっ」
「可愛いでしょー。この間水族館に行っ」
バチンッ。
今度は口を叩かれた。
「いたっ。だいくんひどいっ」
「うるさいっ」
途中で遮られてもなんとなくわかってしまった。
「あ、二人で水族館行ったんだ?」
「行ってないっ」
と大地は否定するが、
「けっこう楽しかったよ~今度は四人で行こうか~」
明はしっかり肯定した。
そんな明に大地がう~~っと唸る。
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