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第十四章 5

 イルカを載せられ手は開いたままで、樹には僕が受けとる意思がないように見えたのかも知れない。  ぎゅうっと自分の手で僕の手ごと握り込んだ。その大きな手の内で僕はその小さなイルカをしっかりと受け取った。  はっとして顔を上げ、 「あ、いっくん、ぼ」   僕もいっくんに何か買う、そう言おうとしたが、それを察し先起こされる。 「俺はいい。カナと違って、柄じゃねぇし」  あわよくばお揃いを。なんて思っていたのに、撃沈。  視線はまた握られたままの手に落ちる。 「……お前」  ゆっくりと手を離しながら。 「また来てもいいかって聞いたのに、来ないじゃんか」  独り言のようにぼそっと溢した。 「え」  今の言葉を頭の中でゆっくり反芻する。  今のどういう……。  聞き返そうとしたが。 「ごめーん、遅くなった」  運悪く明と大地が到着した。 「ん? 二人どしたの? なんか仲良さげじゃなぁい?」  明がにやにやする。 「そんなじゃねぇよ」 「そ? ま、いいけど。じゃあ、早くお昼買ってイルカショーに行こう~」   子どもみたいにはしゃいでいた。  明を先頭に売店に向かおうとして、ふっと樹が振り返る。  僕の顔の横に唇を寄せて。 「ほんとは、海月にしようと思った。けど、あいつらと一緒になっちゃうからな」  二人のスクールバックにゆらゆら揺れていた海月のチャームが頭に浮かんだ。  ★ ★  あいつらと一緒になっちゃうからな。    あれって、どういう意味だったんだろう。  昼休み。二階テラスで大地たちを待ちながら、スマホでゆらゆら揺れるイルカを眺めていた。  初夏の光にきらりと輝く。  一緒にはしたくなかった……?  僕だけの特別にしたかった、とか?  樹の意図はわからないのに、自分の考えにきゅんとしてしまう。 「なぁに、にやにやしてんのぉ~?」 「あ、ニューのストラップだ」  明と大地が揃って登場。  壁に寄りかかっている僕の隣に大地が、向かいに明がそれぞれ座る。 「樹は、売店?」 「うん」  母親が家にいない樹は昼食はいつも売店だった。たまにBITTER SWEETで貰ってくる時もある。  大地が僕の手許を覗き込んでくる。  イルカがゆらゆら揺れている。 「それ水族館で買ったんだ?」 「あ、うん……そうだよ」  いっくんが買ってくれた! 本当はそう言いたかったけど、たぶん樹が嫌がるから言えない。 「それ、もしかして、樹でしょ」  即バレた。    メイさん、鋭い!   「え、城河が、まさかー」  大地はそう否定したが、僕の顔を覗き込んで。 「あ、そうなんだ」  どうやら僕の顔には『正解』と書いてあったようだ。 「ボクらみたいにお揃にしちゃえばよかったのに~」 「お揃とか言うな、カナ先輩が押しつけてきたんじゃないすかー」  大地が真っ赤な顔をして反論する。 「え、でも、大くん。ちゃんとカバンにつけてるよね~」  大地のスクールバックについている海月をちょいちょいと僕は触った。 「七星ぇ~」  裏切り者~みたいな顔をされてしまう。 「もういいよっ、その話はっ。食べよー」  

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