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第十四章 6

 さっさとお弁当を出して「いただきます」と言って食べ始めた。  僕らもそれに習ってそれぞれお弁当を出して食べ始めると、やっと樹がパンを持って現れた。 「樹、遅い。先食べてたよ」 「おー」  樹は明の隣に腰を下ろした。 (良かった。さっきの話いっくんに聞かれなくて。  めっちゃ嫌な顔されそうだもんね) 「樹はー今日バイトぉ?」  一年の頃は樹と同じく売店で買うことが多かったが、最近はお弁当持参の日が多い。そのいつ見ても綺麗なお弁当を食べながら、何気なくといった感じで言う。 「そうだけどー」 「頑張るねぇ」 「樹は何の為にそんなにバイト頑張ってるの? 樹のパパ大きい事務所の弁護士さんじゃん。そんなにバイトしなくても良くない?」 「…………」  その言葉には無言だった。明らかにむっとした顔をしている。 (いっくんのお父さん弁護士だったんだ)  子どもの頃から樹は父親のことはまったく話さないし、子どもの僕はなんの仕事をしているのかなんて気にしなかった。  だから今まで知らなかった。  樹は何の為にバイトをしているんだろう。  樹にはまだまだ聞きたいことがたくさんある。  どうして僕から離れて行ったのか。  そのこともまだ聞いていない。   (少しずつ少しずつだ  パンを食べている樹を見ながら。 (今日バイトか……。  あ、そうだ……) ★ ★ (もしかしたら、いっくんは待っていてくれてるのかも)  水族館で樹がぽろっと言ったことをいいように解釈して、正月以来行っていなかったBITTER SWEETの扉を開ける。  制服のまま行くのはどうなんだと思って今まで行かなかったけど、学校帰りにファーストフードに寄るのと同じと考えれば可笑しくない筈だ。 「いらっしゃいませ」  時刻は四時半過ぎ。  樹と一緒に行くのはなんとなく気が引けたので学校の図書室で少し時間を潰していた。  最初に声をかけてくれたのは、樹。 「来ちゃった」 『客』を迎える為に樹が近づいて来た。傍らに立つ彼にだけ聞こえる声で言う。顔を見ることができず、身体もちょっと固くなってしまう。 「おー」  樹も僕にだけ聞こえる声で短く答え、 「カウンター席でもよろしいですか」  と『客』対応をする。 「はい」 (良かった……。  嫌がられてないみたい。  最初に来た時は明らかに怒ってたもんね)  店内は大学生らしい客と、意外にも女子高生がちらほら座っている。  平日昼間は主婦層が多いらしいのだが、この時間は入れ替わりで空いているようだ。夜になるとまた混んで来るだろうから、その前までほんの少しいることにしよう。    カウンター席に案内されている時、テーブル席の女子高生がちらっと僕を見た。T高校の制服を着た四人連れ。樹のファンだろうか。  少し気まずい。    

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