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第十七章 2
三日目の日程をすべて終えた。
ホテルで夕食を取った僕らは、部屋に戻ってきた。
とうとう二人きりになってしまい、初めは心臓がばくばくするくらい緊張してしまっていた。
(変なの。
二人きりになるのなんて、始めてじゃないのに)
お互い、夕食前に始めていた荷造りを再開する。大きな荷物は明日朝に自宅に送る手続きをする。
それをしながら、交代でシャワーを浴びる。
時々他愛ない話をしているうちに、だんだんと緊張が解れて、自然体になっていく。
「いっくん、眠くなってきた」
緊張が解れると、一日の疲れがどっと押し寄せて、眠気が襲ってきた。なんとか、荷造りを終えると僕はベッドに上がった。
二つ並んだベッドの窓に近いほうを僕は選んでいた。
「おー。俺ももう終わるから先寝てていいよ」
「うん。おやすみ~」
「おやすみ、ナナ」
(わ~なんか今すごく優しい声で言われたみたいな)
そんなこと考えつつベッドの中に潜り込んだ。
トントン。トントン。
夢の中で誰かがノックをしている。
トントン。トントン。
「なんだ、こんな時間に」
小さな声で呟いて、ちっと舌打ちのが聞こえた。
(あれ? 夢じゃ……)
そう思った瞬間。
ブルブルと枕元にあったスマホが震えた。
「え? 何」
やっと夢じゃないことに気づいて、スマホを掴んだ。
見ると、相手は大地。
「大くんからだ」
「じゃあ、あれは」
樹はまだ寝ていなかったのか自分のベッドの脇に立っていた。顔はドアのほうを向いている。
僕は慌てて通話を押した。
「ななせぇ~お願い~開けて~」
ドアの向こうからも微かに同じ声が聞こえてくる。
立っていた樹が嫌そうな顔をしながらも開けてあげると、大地が飛び込んできてた。樹の横を通り抜け、一目散に僕の元にやってくる。ベッドにダイブして、半身上掛けの中の僕に縋りついてきた。
「七星~っっもう、アイツ嫌いだ~っっ」
涙声で叫ぶ。
「え? アイツ? 誰?」
「おい、静かにしろよ。見回りしてるぞ」
消灯時間は十時。
一時間程が過ぎている。勿論寝ていない生徒は山程いるだろうし、中にはこうやって部屋を抜けだす生徒も……。
当然先生方は見回っている。見つかればそれなりのお叱りは受ける筈だ。
「城河には言ってない~」
「なにっおまえっ」
「しー」
喧嘩腰になりそうな雰囲気を感じ、僕は人差し指を口の前に立てた。
樹はちっとまた舌打ちをしたが、黙って自分のベッドに腰掛けた。
「大くん~どうした~? 何かあった? メイさんは心配してるんじゃない?」
修学旅行前に聞いた話だと、大地と明もずっと同じ班で、最後の夜は僕らと同じで二人が同室の筈だった。
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