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第十七章 4

「なんでだよ──」  不機嫌通り越してちょっと怒った顔になっている。  そこでブルブルとベッドの上にあった樹のスマホが振動する。ちっと舌打ちしながら、がしっと掴んだ。 「──そうだよ。ここにいる……泣きながら寝たぞ」  相手は明のようだ。 「……それ、俺に言ってもしょうがねぇだろ。迎えに来いよ。んで、もう一度ちゃんと話し合って仲直りしろ、迷惑だ……え? なにっ?」 (めちやめちゃ怒ってるなぁ)  そんなふうに思いながら僕の腰に巻きついている手をそっと外し、そっと大地の下から抜け出した。  ごろんと寝返りを打っても大地は起きなかった。  ベッドから降りる。上掛けを掛けてあげたいけど、右半分に大地の身体が乗っかっていて抜くことが出来ない。仕方なしに左半分を折るようにしてかけた。 (簀巻き……)  頭で考えて、ぷぷっと笑ってしまう。 「おい、カナ、切るなーっ」  その後数秒耳に当ててたが、くそっと言う声と共にベッドに放り投げた。 「メイさんなんて?」 「……ごめぇん。女子とお庭にいたらセンセーに見つかって起こられてちゃった。消灯時間過ぎてたの気がつかなかった、てへっ」 「え……」   (なに。今の)  その言葉遣いとは裏腹の無表情、低音、抑揚なし。その不気味さをどう処理して良いのかわからず無言。 「って、部屋に戻って開口一番に言ったら、日下部が怒りだした」 (今の、メイさんのマネだったんだ。  ああ、びっくりした) 「本当は夕(めし)の後日下部と別れて売店に寄ったら女子数人に囲まれて庭に連れてかれて、告白されたから断ったら泣かれた。いつの間にか、他の女子はいなくなってるし、消灯時間は過ぎてるし、運悪く見回りのセンセーに見つかるし──後からそう説明したけど、全然聞いてくれず飛びだして行った、んだそうだ」 「そうなんだ。それで? メイさん迎えに来るって?」 「寝ちゃってるならとりあえず預かってくれってさ。朝まで戻って来なかったら迎えに行く。朝には冷静になってるだろうから、そしたらちゃんともう一度話すって」  僕は「うん」と頷いた。 「じゃあ、やっぱりこのまま。いい、よね? いっくん」  上目遣いに恐る恐るお願いする。 「ったく、最初からちゃんと説明しろって。茶化すからこうなるんだろ。彼奴そう言うとこあるよな」 「そうだよね」  明の内面は優しくて気遣いのできる人。でも、深刻になるのを避けるのか、いつも茶化すような軽い言い方をする。  樹は「いい」とは言わないが、さっきまでの怒りは消え、どうやら了承してくれたようだ。 「いっくん、ごめんね。ありがとう」 「ナナが礼を言うことじゃねぇよ。明日こいつらにたっぷり礼をさせる」  僕はあははと笑った後、徐に大地の寝てる自分のベッドに近寄った。 「じゃあ、寝るね。おやすみ~」 「ああ? ちょっと待てっ! 何処で寝る気だ?!」  ベッドに上がろうとして、後ろから肩を掴まれた。    

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