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第十七章 5
「何処ってここ」
僕は大地が寝ている、半分空いているベッドを指差した。
「だめだろ」
怒り気味の顔で否定。
(あれ? また怒ってる? なんでだろ)
「なんで?」
「せ……狭いだろっ」
「うん……ちょっと狭いけど、寝れなくないよ」
きっと心配してくれているんだなと思い、僕は殊更明るく言った。
「だめだっ──お前、こっちのベッド使え」
顎をしゃくって自分の使う予定だったベッドを示す。
「え? じゃあ、いっくんどうするの?」
「俺? 俺はソファーに……」
なんだか少女漫画的展開になってきたが、見回してもこの部屋に寝れるようなソファーはなかった。
代わりに一人掛けの椅子が二つ。
「あの椅子を二つ繋げて」
「無理だよ、いっくんじゃ。だったら僕がそっちに寝るから」
背の低い僕でもけっこう無理があるのに、百八十センチを超えている樹が寝れる筈がない。
「う~~」
樹は急に唸りながら、頭をがしがしと掻き始めた。
「あ~、もうっいいっ」
言うが早いか僕の腕を掴んで引っ張り、自分ベッドの上に転がした。
「え」
「もっと、そっち行けっ」
「はい」
何が何だかわからず素直に従う。
樹は自分もベッドに上がり込み、下方に寄せてあった上掛けを僕諸共ふぁさっと掛けた。
(え? なんで?
なんでこうなるの?)
樹は僕に背中を向けていたけれど。
僕の心臓はどくんどくんと大きく波打っていた。
「いっくん、これじゃあ、大くんと寝るより」
(狭いんじゃ……)
そう言おうとしたのに。
「俺とは昔一緒に寝たことあるだろ」
訳のわからない理屈で捩じ伏せられた。
「でも」
でも、僕は、ダメなんだ。
大くんと一緒のベッドで寝てもどきどきなんてしないけど。
いっくんだとめちゃめちゃどきどきしちゃう。
だから、ダメなんだよぉ。
そんなこと、気持ち悪すぎて言えない。
「いっくん、寝相悪かったよね」
不自然にならない理由で誤魔化す。
「寝ながら大の字になって、僕蹴られたり顔をぶたれたりしたんだけど。あとごろごろ転がって僕の上に乗ってきたり……」
そこまで言って、ふと『今の樹が乗っかってきたら』と言う想像をしてしまった。恥ずかしさで顔が熱くなる。たぶん顔は真っ赤だ。
背中合わせに寝ているから樹には見られてないと思うけど。
「子どもの頃の話だろ」
普通に答えが返ってきて、気づかれなかったとほっとする。
でも僕のどきどきは止まらず、何か話していないと音が聞こえそうな気がした。
「ね、ねぇ。大くんはなんであんなに怒ってるのかなー。メイさんが消灯過ぎても帰って来なくて心配してたのに、女の子と一緒だったから?」
さっき疑問に思ったこと。今話題にすることでもないのに。
つい口から出てしまった。
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