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第十七章 6
「…………」
無言が続いた。
(あれ? いっくん、寝ちゃったのかな?)
そう思ってたら、突然ごろんとこっちに身体を向けた気配がする。
「いい機会だから言っておく」
耳の近くで低音が聞こえた。
(ひゃあっ)
変な声が出そうなところをどうにか堪えて心の中だけで叫んだ。
何か話があるんだと、僕も身体を樹のほうに向け──ると近くなり過ぎるので、俯せになって組んだ両手の上に顎を乗せた。横目で樹の方を見ると、片腕を枕に僕のほうを見て寝転んでいた。
(わ~そんな間近で見ないで~)
心臓が破れそうなくらいにどきどきしてしまう。
「きっと、ナナなら偏見ないと思って言うな」
「うん。何?」
「二人の性格上、今日みたいな揉め事がまたあるかもしれないから。友だちとしてこれからもつき合っていくなら知っておいたほうがいい──あの二人、カナと日下部はつき合ってる」
「つき合ってる……?」
すぐに意味が飲み込めず、反芻した。
「恋人同士ってことだ」
(わかりやすい説明ありがとっ!
って、えーっっ!)
「えーっっ!」
最後のほうは声に出てしまった。
しーっと樹が口の前に人差し指を立てる。
「余り深く考えなくていい。でも、カナが消灯後に女子と二人きりでいて、日下部が怒った理由はわかるだろ?」
「う、うん」
僕は小さな声で頷いた。
「俺もなんとなくは気づいていたんだ。二人の態度がだんだん変わってきていたから。二年になってカナが白状した。日下部はたぶん言わないと思うから、ナナも訊いてやるな」
「……わかった」
「じゃ、そういうことで。おやすみ」
「おやすみ……」
樹がまたごろんと寝返って背中を向けた。
僕も背中を向け、そして、少し離れた。
二人の話を聞いて気持ち悪いと思ったわけではなかった。
その逆だ。
そういうこともあるんだと納得した。
それから、自分のことも考えてみた。
樹に対して異常にどきどきしてしまったり、誰かと仲良くしているともやもやしたり。
(そうなんだ……僕も……)
意識し過ぎて更に眠れなくなってしまった。
どれくらいが過ぎたのか、規則正しい寝息が隣から聞こえて来るのをずっと聞いていた。
(ほんとに寝相良くなったんだな)
まったく動かない樹にそんなふうに思っていたら、身動ぎする気配がした。
(え! ええーっ)
僕は突如として温かなものに包まれた。
後ろから樹に抱きしめられたのだとわかった途端、身体がざわつき始めた。
しかし、樹からは相変わらず寝息が聞こえてくる。たぶん、寝惚けているのだろう。
(もしかして女のコと間違えてるのかな。
彼女いたことあったみたいだし)
そう考えてしまったら、きゅっと胸が傷んだ。
朝方少し寝たらしい。
気がついたら、樹はもう着替えていて、大地もいなかった。
「大くんは?」
「さっきカナが迎えにきた」
「そう。仲直りできたかな」
「たぶんな」
僕ももそもそ起き上がって支度を始める。
「ふぁぁぁ」
大きな欠伸が聞こえた。
樹のほうをちらっと見ると、酷く眠そうな顔をしていた。
(あれ? いっくん、ぐっすり寝てたみたいだけど?)
僕は小首を傾げた。
★ ★
「ナナちゃ~ん、もうすぐ着くよ~」
明に肩を軽く揺さぶられた。
僕は今気づいたように、ゆっくり目を開けた。
「あ……僕、寝ちゃってたんだ──わ、ごめん、いっくん」
僕は慌てた振りをして、樹の肩に寄りかかっていた頭を離した。
「別に」
ぶっきらぼうに返された。でも顔が優しげに見えるのは、さっき聞いた僕を気遣う言葉のせいか。
「良く寝てたよ~」
明は何故かにやにやしながら言うが、大地は、
「ごめん、七星」
と、深々頭を下げた。
「俺が昨日そっちの部屋で大騒ぎしたから」
「ううん。大丈夫だよ。仲直り出来て良かった」
大地にはそう言ったけど。
(でも、ほんとは、大丈夫じゃないよ。
大くん。
いろいろあったんだ。
僕の気持ちにも……)
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