91 / 156

第十八章 2

「城河に彼女? ただの噂だろ」  然り気無くさっき聞いたことを二人に言ってみた。  大地の口振りからすると、既に知っていたようだけど。 「なぁ、カナ先輩?」 「うーん……」 「え? まさか、あの噂ほんとなのか?」  何の根拠か完全にただの噂だと思っていたらしく、即答しない明に驚いている。  明はもう一度「うーん」と唸る。 「大くんは……なんで、ただの噂だと思うの?」  自身ありげなあの口振りの理由なんなのか。それを聞いて安心したいと思った。 「えっ、だって。城河って」  そこまで言って明に遮られた。 「彼女だって、樹は言ってた」 「え!」  声を上げたのは大地のほうで、僕はもう声も出せなかった。 (いっくんが……そう、言ったんだ……。  彼女だって……)  心臓がさっきよりもずっとずっと痛い。  何処かであの女子が言ったことが、ただの勘違いだと思いたかったのだ。  それこそ『なんの根拠で』だ。 「この間、久しぶりにBITTER SWEETに行ったんだ。母親から叔父さんに用事頼まれて」  マスターは明の母親の弟ということだろうか。 「そしたら、扉の前で樹が、女子大生風の女のコと話をしてて」 「お客さんじゃないのか?」 「や、そうだけど。樹、ただのお客さんを外まで見送らないよぉ、特に女子は。面倒ごとのもとだからって言ってたから」  うっと大地が言葉を詰まらせる。樹のもて具合と性格からして、それはあり得ることだと思った。 「先に入って叔父さんに『誰?』って聞いたら、『常連さんなんだけど、最近つき合い始めたみたいだよ』ってにやにやしながら言うんだ」 「叔父さんの勘違いじゃないの?」  大地はどうしてそこまで『彼女説』を否定したいんだろう。 「いや、だからさ。オレが帰る時、樹を外に引っ張ってって聞いた、『誰』って。『彼女──最近つき合い始めた』アイツ、そう言った」 (ん? メイさんなんか怒ってるのかなー。  口調が……) 「良かったよね。いっくんに彼女できて」  友だちだったらきっとこういうに決まってる。だから、本当は言いたくないことなのに、僕は笑って言うしかなかった。 「七星……」 「ななちゃん……いいコ」  何処か労るような目差しを両方から向けられた。  大地にはぎゅうっと抱きしめられ、明はよしよしと頭を撫でられる。   (なんで二人ともそんな顔、するの。  僕、ちゃんと、いっくんのこと友だちだと思ってるよ。  これからも友だちとして接するよ) 「何やってんだ」  突然頭の上から不機嫌そうな声がして。  僕にくっついている二人を引き剥がそうとする力を感じた。 「いっくん」  

ともだちにシェアしよう!