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第十八章 2
「城河に彼女? ただの噂だろ」
然り気無くさっき聞いたことを二人に言ってみた。
大地の口振りからすると、既に知っていたようだけど。
「なぁ、カナ先輩?」
「うーん……」
「え? まさか、あの噂ほんとなのか?」
何の根拠か完全にただの噂だと思っていたらしく、即答しない明に驚いている。
明はもう一度「うーん」と唸る。
「大くんは……なんで、ただの噂だと思うの?」
自身ありげなあの口振りの理由なんなのか。それを聞いて安心したいと思った。
「えっ、だって。城河って」
そこまで言って明に遮られた。
「彼女だって、樹は言ってた」
「え!」
声を上げたのは大地のほうで、僕はもう声も出せなかった。
(いっくんが……そう、言ったんだ……。
彼女だって……)
心臓がさっきよりもずっとずっと痛い。
何処かであの女子が言ったことが、ただの勘違いだと思いたかったのだ。
それこそ『なんの根拠で』だ。
「この間、久しぶりにBITTER SWEETに行ったんだ。母親から叔父さんに用事頼まれて」
マスターは明の母親の弟ということだろうか。
「そしたら、扉の前で樹が、女子大生風の女のコと話をしてて」
「お客さんじゃないのか?」
「や、そうだけど。樹、ただのお客さんを外まで見送らないよぉ、特に女子は。面倒ごとのもとだからって言ってたから」
うっと大地が言葉を詰まらせる。樹のもて具合と性格からして、それはあり得ることだと思った。
「先に入って叔父さんに『誰?』って聞いたら、『常連さんなんだけど、最近つき合い始めたみたいだよ』ってにやにやしながら言うんだ」
「叔父さんの勘違いじゃないの?」
大地はどうしてそこまで『彼女説』を否定したいんだろう。
「いや、だからさ。オレが帰る時、樹を外に引っ張ってって聞いた、『誰』って。『彼女──最近つき合い始めた』アイツ、そう言った」
(ん? メイさんなんか怒ってるのかなー。
口調が……)
「良かったよね。いっくんに彼女できて」
友だちだったらきっとこういうに決まってる。だから、本当は言いたくないことなのに、僕は笑って言うしかなかった。
「七星……」
「ななちゃん……いいコ」
何処か労るような目差しを両方から向けられた。
大地にはぎゅうっと抱きしめられ、明はよしよしと頭を撫でられる。
(なんで二人ともそんな顔、するの。
僕、ちゃんと、いっくんのこと友だちだと思ってるよ。
これからも友だちとして接するよ)
「何やってんだ」
突然頭の上から不機嫌そうな声がして。
僕にくっついている二人を引き剥がそうとする力を感じた。
「いっくん」
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