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第十八章 3

 引き剥がそうとする力から守ろうと、更に大地が力を込める。 「大くん?」  最近は樹を見る大地の目も柔らかくなっていたが、今はまたきっと睨みつけるような眼差しだ。 「城河には渡さない」 「何言ってんだ?」  樹も何処か意地になっているのか、攻防を繰り返す二人。 「樹には、そんな権利ないだろ」  明の顔も険しい。 「カナ? なんで、お前まで怒ってるんだ」  何が何だかわからない様子だが、それでも売られた喧嘩は買うらしい。樹は僕から手を離し……。 「はいっ」  パンッと僕は一回手を叩いた。 「お昼休み終わっちゃうから、早く食べよ~」  僕には似合わない殊更明るい声で言ってみた。このままだと、本気で喧嘩しかねない。  大地は無言で僕を抱きしめる腕を解き、明は樹から目を反らしてお弁当を出す。  樹も少し離れたところに腰を下ろしてパンを噛り始めた。  いつもの「いただきます」もなく、険悪な雰囲気の中、音を立てたら罰ゲーム! くらいの勢いで静かな食事を終えた。 ★ ★  その日から何が変わったということはなかった。本人も何も言わないし、『彼女いる説』の片鱗も感じなかった。  それは相手が大学生だからかも知れない。もし同じT高校の生徒なら、仲睦まじく歩いているところを見なければならない可能性もあるだろう。  彼女がいるのなら大事なイベントのクリスマスも、樹はイブも当日もバイトだった。そして、イブは昨年と同じくバイトを早上がりさせられ、明の誕生日パーティーに参加させられていた。そこに『彼女』が現れることもなかった。  ただBITTERS WEETの常連の女生徒が噂しているのだけは、時折聞くこともあるのだが。  自分の気持ちに気づいたからと言って、明と大地のように気持ちが通じ合うこともないだろう。  僕はただ自分の想いを持て余すばかり。  冬休みに入り、イブのパーティー以降は集まることもなかった。  彼女が『常連の女子大生』という噂のせいで、たまに学校帰りに寄っていたBITTER SWEETへの足も、皆で行く以外は遠退いていた。 (いっくん……会いたいたな……) 『好き』ってやっぱりそういうことなんだろう。  辛いけど、やっぱり会いたくなる。  いつの間にこんなに。  でも。  思い返してみれば、子どもの頃から樹が好きだった。格好良くて憧れた。会えなくなっても、すごく気になっていた。高校で再会してからは、避けられたり『嫌い』と思われるのを恐れたりした。 『友だち』だからと思ってた。でも違った。  いつも樹にどきどきしてた。 (なんだ、最初から好きだったんだ)  今はそう思わずにはいられなかった。 

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