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第二十一章 1

 ** 第二十一章 **  いつも、昼休み前までにその日の集合場所を、大地か明がグループラインで連絡してくる。  そう、樹も入ったままのグループだ。  樹も見ているようだが……たぶんもう来ないのだろう。  でも。  もし、もし、『何か』が解決をしたとしたら……。  また来てくれるだろうか。  また一緒に歩いて『ナナ』と呼んでくれるだろうか。 ★ ★  昼休み。  今日の僕は二階テラスに向かっていた。  少し前を樹が歩いている。  T校の校舎はコの字型で、三年の教室は正門側の二階、テラスはグランド側にある。   (え……まさか)  あり得ないと思いながら、でも心の底では期待していた。  樹は二階テラスに来てくれるのではないと。ら  しかし、樹はグランド側校舎に辿り着き、更に一番奥まで行く。この辺りは普段使用されていない教室が多く今も人気がない。  樹はその奥まったところにある階段を昇り始めた。 (三階……。  それとも、屋上……?)  期待に膨らんだ胸は無惨に萎む。  僕はそのまま少し遅れてついて行く。  この階段を昇り切った先には屋上への入口がある。  しかし、屋上は立ち入り禁止で、ドアには鍵が掛かっている。  屋上には入れないものの、そこの踊り場は生徒たちが(たむろ)するにはうってつけの場所だ。特に素行の悪い方々(かたがた)には。喫煙したり暴力を振るっているというような噂も流れているのだ。 (う……ん)  僕はしばし悩む。  『あの集団』と出(くわ)すのは避けたい。  三階から少し上がったところで立ち止まり様子を伺った。  耳を澄まして見ても、話し声などはしなかった。  僕は思い切って樹を追いかけた。  階段の真正面に屋上へと繋がるドアが見え、その横に樹が。  一人だった。  壁に寄りかかって購買で買ったパンを噛っている。  人の気配を感じたのか、彼は顔を上げた。 「……ナナ……」  口の中のものを飲み込んで僕の名を呼んだ。  それだけで嬉しさと、そして切なさに包まれる。  樹も酷く複雑な顔をしていた。  この表情の内には、いったいどんな想いがあるのだろう。 「どうして、ここに」 「……廊下で見かけたから……もしかしたら……テラスに行くのかと思って……」  言いながら近づいて行き、樹の前に立つ。  いろいろ溢れてきてしまいそうで、一つ一つ抑え気味に言葉を繋げた。 「まさか……だろ」  樹は個包装の袋に食べかけのパンを戻し、更に買った時に貰った手つきの小さなビニール袋の中に入れた。  それから徐に立ち上がる。  再会した時のような冷たい目で見詰めてくる。 「もう、一緒に食べることなんてない」 「どうしてっ?!」   くっと嘲笑するような笑いが漏れた。 「なんでって。今の俺を見ればわかるだろ。今は『彼奴ら』の仲間だ」  嘲笑は僕にではなく、自分に対してのもののように思えた。    

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