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第二十一章 7

  (いっくんは、なんで僕にそんな嘘を……)  梨麻の話したことの順を追う。 『彼女のフリ』を頼んだのが『修学旅行後』。  樹が言ったという理由については意味がよくわからないけど、それも真実とは限らない。梨麻のいう通り、『自分のことを好きな誰かを諦めさせる為』というのが普通の考え方なのかも知れない。 (そうだとしたら?)  BITTER SWEETでも『フリ』をしていたということは、そこに来る『誰か』に見せたいから。あるいは、そこに来る知り合いに見せて噂を広めたいから。  あそこにはT校の女子も樹目当てに通っている。T校で噂を広めたかったのかも知れない。  それから。  もう『彼女のフリ』を解除した後なのに、僕に『他に守りたいヤツがいる』と言った。実際に他に出来た、『彼女』か『好きなひと』かというのも考えられるけど。 (僕への牽制……)  さまざま考えて、思い至るのは。  ひょっとして、修学旅行で僕が自覚した『想い』に、樹が気がついたんたのではないだろうか。  血の気が引いていくのがわかった。  変な汗が流れてくる。 (気持ち悪いって思われたんじゃ……。  自分に近づくと危ないから、とかじゃなく。  本当に嫌われたのだったら……)  僕の頭の中はいろんな想いで混乱した。 (嫌だ!  嫌われたくない!  離れたくない!  嘘でもいい!  自分の気持ちを捨ててもいい!)  そんなんじゃないって言いに行こうと、僕は決意した。  僕は慌ててそこから立ち上がった。  さっき通って来た道を走って戻る。  学校へ行く大通りを途中で右に入って、BITTER SWEETがある住宅街へ。  もしかしたら今日はバイトではないかも知れない。それだったら、樹の家に行こう。   (今日どうしても話したい……っ)  切に願った。  体力のない僕はさすがに最後まで走り続けることは出来なかった。  息が切れ、BITTER SWEETの少し前から歩き始める。  ゆっくり近づいて行くと、目に入る光景が何か今までと違うような気がする。 (あれ……壁ってあんな色だったっけ?)  確か白だった筈の壁にいろんな色で塗られているように見えた。  壁の前まで来て愕然とする。  ラッカーなどでの酷い落書きだった。  僕が怪我をした公園で、中学生が石碑にラッカーで落書きをしたのを思い出した。  心拍数が上がり、頭がぐらぐらする。 「なにこれ……」  心の中で言ったつもりが、口から溢れてしまった。  もう一歩を踏み出すと足許でジャリジャリと音がする。 「ナナ! 危ないから歩くな」  思いもかけず声が飛び出してきた。  門の中を見るとすぐ内側に樹と店長が立っていた。  樹は制服のままだった。  

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