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第二十一章 8
「なんで?」
意味がわからないまま、とりあえず樹の言う通り立ち止まった。
「イルミの電球が壊されてね」
答えたのは店長だった。大きな溜息と共に。
まだ外が明るかったので気づかなかった。
塀や門に飾りつけられていたイルミネーションの電球は無惨な姿になっていた。そして、その破片がそこかしこに散らばっている。
さっき足許でジャリジャリしていたのはこれだった。
僕はなるべく踏まないように大股で、門の中に入った。
「え……っ。これ……」
壊されたのは電飾だけではなかった。
門の外側にいつも置いてある看板やメニューがへし折られここにあった。
「酷いっ」
「そうなんだよ。最近落書きが増えて、その度に消したり上から塗ってみたりしてたんだけど、今日来たらこうだったんだ」
店長の視線は、門から扉まで行き来した。
それに習って僕も視線を走らせると、アプローチにあるライトも扉前のメニューもやはり壊されていて、扉にも落書きがあった。
店長はがっかりと肩を落とし、眉を下げ酷く悲しげな顔をしていた。
樹はずっと無言で、悔しそうに唇を噛んでいる。
「これじゃあ、営業出来ないだろ? 樹くんには朝連絡して、しばらく休んでくれるように言ったんだけど。心配して来てくれたんだよ」
樹はぎゅっ目を瞑り、ぶんぶんと頭を横に振った。
「俺のせいだ」
両の拳を白く成る程握り締めている。
店長は、樹を労るようにぽんぽんと肩を叩いて、扉のほうに歩いて行った。
「俺のせいって……いっくん、どういう意味……?」
店長が店の中に入ったのを見計らって僕は訊ねた。
「俺が彼奴らの言う通りに行動しないから」
「彼奴らって? 学校の『仲間』のこと?」
「あんな奴ら仲間じゃないっ」
低く唸った。
「やっぱり『仲間』じゃなかったんだ……」
樹は怒りに我を忘れているのか、この間誤魔化そうとした『仲間』のことを、はっきり自分で否定してしまった。
一瞬『しまった』というような顔をしたが、
「そんなことどうでもいい」
と開き直った。
「学校の連中だけじゃない、龍惺会の連中が関わってる。末端連中だが、そっちのほうが危ない──ナナ、俺の傍に寄るなって言ったろ、なんで来たんだ」
そう言いながら、目はきょろきょろと門の外側を気にしている。
(何か気にしてる? 誰かいるの?)
そう思いながら。
今日ここに来た大事な理由を言わなければ、と。
「あの人彼女じゃなかったよね」
気が急いでいろいろ抜けてしまっている。
しかし、よくよく考えれば──いや、よくよく考えなくてもだけど。
(おーいナナ、こんな大変な時に言うことじゃないよね?!)
自分にツッコミを入れたくなった。
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