113 / 156

第二十一章 8

「なんで?」  意味がわからないまま、とりあえず樹の言う通り立ち止まった。 「イルミの電球が壊されてね」  答えたのは店長だった。大きな溜息と共に。  まだ外が明るかったので気づかなかった。  塀や門に飾りつけられていたイルミネーションの電球は無惨な姿になっていた。そして、その破片がそこかしこに散らばっている。  さっき足許でジャリジャリしていたのはこれだった。  僕はなるべく踏まないように大股で、門の中に入った。 「え……っ。これ……」  壊されたのは電飾だけではなかった。  門の外側にいつも置いてある看板やメニューがへし折られここにあった。 「酷いっ」 「そうなんだよ。最近落書きが増えて、その度に消したり上から塗ってみたりしてたんだけど、今日来たらこうだったんだ」  店長の視線は、門から扉まで行き来した。  それに習って僕も視線を走らせると、アプローチにあるライトも扉前のメニューもやはり壊されていて、扉にも落書きがあった。  店長はがっかりと肩を落とし、眉を下げ酷く悲しげな顔をしていた。  樹はずっと無言で、悔しそうに唇を噛んでいる。 「これじゃあ、営業出来ないだろ? 樹くんには朝連絡して、しばらく休んでくれるように言ったんだけど。心配して来てくれたんだよ」  樹はぎゅっ目を瞑り、ぶんぶんと頭を横に振った。 「俺のせいだ」  両の拳を白く成る程握り締めている。  店長は、樹を労るようにぽんぽんと肩を叩いて、扉のほうに歩いて行った。 「俺のせいって……いっくん、どういう意味……?」  店長が店の中に入ったのを見計らって僕は訊ねた。 「俺がの言う通りに行動しないから」 「彼奴らって? 学校の『仲間』のこと?」 「あんな奴ら仲間じゃないっ」  低く唸った。 「やっぱり『仲間』じゃなかったんだ……」  樹は怒りに我を忘れているのか、この間誤魔化そうとした『仲間』のことを、はっきり自分で否定してしまった。  一瞬『しまった』というような顔をしたが、 「そんなことどうでもいい」  と開き直った。 「学校の連中だけじゃない、龍惺会の連中が関わってる。末端連中だが、そっちのほうが危ない──ナナ、俺の傍に寄るなって言ったろ、なんで来たんだ」  そう言いながら、目はきょろきょろと門の外側を気にしている。   (何か気にしてる? 誰かいるの?)  そう思いながら。  今日ここに来た大事な理由を言わなければ、と。 「あの人彼女じゃなかったよね」  気が急いでいろいろ抜けてしまっている。  しかし、よくよく考えれば──いや、よくよく考えなくてもだけど。 (おーいナナ、こんな大変な時に言うことじゃないよね?!)    自分にツッコミを入れたくなった。

ともだちにシェアしよう!