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第二十五章 4

 僕らは砂浜を駅方面に向かって歩いて行く。  樹の歩幅はいつもよりぐっと狭く、速度もかなりゆっくりだった。二人で歩く時は僕に合わせてくれるけど、今はそれよりも遅い。僕もそれに合わせて少し速度を落としているくらいだ。  それでも、水族館から駅まではそれほど遠くないので、そろそろ駅付近になるはず。 「そろそろ駅かな」 「ああ、そうだな」  調度コンクリートの壁が途切れ、歩道に上がる階段のあるところに差し掛かる。樹は方向を変え、その階段に向かった。 (帰るのかな……)  階段を駆け上り歩道を足早に歩く。急に速度を上げた彼のあとを追っていく。 (どうしたのかな、急に。そんなに帰りたかった?)  少し寂しい気持ちになりながら、階段を上り切ったところで樹が引き返してきた。  あれ? と思って、そこで立ち止まっていると、僕の前を通り過ぎまた砂浜に下りて行く。僕は彼の行動を見守った。  樹は砂浜に腰を下ろすと、上着のポケットからハンカチを出し砂の上に敷く。視線で僕に座るように促した。  僕は、女の子への対応みたいで少し気恥ずかしくなりながらそこに座る。 「はい」と手渡されたのは、甘そうなカフェラテの缶。それは冷えた手にとても熱く感じた。  まるで僕の心の中みたいに。  樹は自分のブラックコーヒーの缶を開け、口をつける。 「飲まないのか?」  じっと見ていたのを変に思われたろうか。僕は慌ててプルタブを引いた。一口飲むとほろ苦い味が口に広がる。甘そうだと思ったが、樹が作ってくれるカフェラテのほうがもっと甘い。僕専用の特別仕様だから。 「……いっくんのカフェラテ飲みたくなった」  素直な言葉が零れる。 「あ、ごめん。せっかく買ってくれてのに」 「馬鹿……──ま、そのうちな」  その声は僕仕様のカフェラテと同じくらい甘く響いた。  樹はコーヒーを飲みながら、海を見る。しかし、その視線は海よりもずっと遠くを見ているように思えた。 「──俺、お前に追いつくよ」 「え?」  樹と同じように海を眺めていた僕は、突然の呟きに視点を変える。  決意の色が浮かぶ横顔が見えた。 「お前らがいなくてもちゃんとやる。今までみたいに馬鹿なことはしない。()き過ぎた行動もしない。自然に自分を抑えられるようになる──それで、ちゃんと大学に入って、お前に追いついて…………」  樹はそこで言葉を切り、僕のほうを見る。  片手が伸びてきて。  その手は僕の頬に。 (え……なに……)  間近に樹の顔があって僕を見詰めている。  どきどきと心臓が煩い。   (これって……)

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