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第3話

 山科からの報告によると吉継が取り乱しのはその時だけで、それ以降は大人しく療養しているようだった。  あの時のことは、「厚木さんが急に来たからびっくりした」と言っているらしい。  吉継が厚木の様子を気にすることは無くなった。  吉継とは、流れで一度プレイとセックスをした。  その後は吉継の主治医である押元、秘書の笠井、山科に至るまで、心の傷を抉る行為だと激しく怒られた。  合意の上だとしても。  それでも吉継が厚木を、”会いたい”というニュアンスで気にしていたので、顔見せくらい良いだろうと思われていたのだが。  厚木は吉継の感情を刺激し、治療の妨げになると判断され、”藍”への立入禁止を言い渡された。    吉継を保護するにあたり両親と連絡を取ったが、すでに両親は他界していた。  祖母がいるということで吉継のことを説明すると、好きにしてくれたらいい、と取り付く島もなかった。  そんな経緯で吉継の身の上を調べると、幼少期は、両親から充分な養育をしてもらえず施設に入っていた。  一時期は祖父母のところにもいたらしいが、あまりいい経験はしていない。  結局、施設から学校に通い、バレーボールの才能を見出されて、厚木の子会社へ入社し、実業団に所属した。  吉継は、入院が必要な状態でもなく、自宅周りも騒がしい。  取り急ぎ、私邸に住まわせるに至った。    毎日の経過報告では、吉継は体調面、精神面共に大きな問題はなく、静かに過ごしていた。   療養を始めて一ヶ月。  以前から希望していた外出をすることになった。  押元の往診を通院に切り替える。  最初は周辺の立地を案内するため、付き添い人が付く。  それでも吉継は喜んで、押元の病院以外にも、本屋やカフェなどの場所を覚えて帰って来たようだ。    厚木は、食事や睡眠など、生理的欲求を満たす時間以外は基本的に仕事の時間で、社畜である所以である。  Dom性は強いが、時と場合によっては仕事を優先させなければならない。  隙間時間を見つけて、プレイのみを提供する派遣会社からSubを派遣してもらい、欲求を満たしている。ダイナミクス性向けの風俗である。  吉継とのプレイは、社長業を初めてからこの数年の中で、一番欲求を発散できたと思っている。  あの貪欲なまでのSub性に、何を考えているのかわからない、ちょっと壊れたところが気に入っている。    「捨てないでほしい」  あれが一番の本音であることは、厚木にも伝わっている。      厚木には、吉継の治療がうまく行こうが行くまいがどうでもいいことだ。  このまま私邸に住まわせてもいいし、選手として復帰したいならサポートもできるし、働きたいなら働き口なんていくらでも用意できる。  療法士とのプレイも問題ない。  どっちにしろ、吉継を見捨てる気はなかった。  吉継が”藍”で療養を始めて三ヶ月。    外出したままの吉継が帰って来ないと山科が泣きそうな声で電話してきた。      

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