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第5話
まだグズグズしている吉継だが、だいぶ泣き止んできた。
「吉継、療法士とのプレイは続けろ」
「…はい」
「それで足りない分は俺が相手してやる」
「厚木さんが…?」
でかい図体で厚木の膝に手を置き、上目遣いで目をぱちくりさせている。
ただの頭がおかしいSubだと思っていたのに…。
「不満か」
「違う…もう俺としたくないんじゃないかって思ってたから…」
「そんなことはない。だが俺が忙しいのは本当だ」
自分の欲求解消すらままならないくらいで、貪欲な吉継の相手は到底務まらない。
「お前とプレイするならあの家の方がいいが、普段はどこにいてもいい。ただ山科は、お前の事を気に入っている」
「山科さんが?」
「俺のときより甲斐甲斐しい」
山科は、吉継を息子のように可愛がっている。
吉継が寂しがっていると言ったのも彼女だ。
「山科さんの料理は美味しくてつい食べすぎてしまいます」
「直接言ってやれ」
吉継は、このマンションを維持したまま、押元が決めた療養期間は”藍”にいることを決めた。
待機させていた車で”藍”に着くと、山科が一目散に吉継のところへ走って出迎えをした。
明らかに泣きはらした目を見ても、態度を変えないところはさすがだ。厚木は睨まれたが。
「ご無事でよかったです」
「心配かけてすみません」
「そんなことは良いですから、お腹空いてるんじゃないですか。夕食の用意はできていますよ」
グイグイ吉継をキッチンへ誘導していく。
山科は、厚木の方へ向き直り、
「吉継さんを連れ戻してくださり感謝しています。でも…」
出入り禁止ですから。と副音声が聞こえた。
厚木は家主なのであからさまには追い出されないが、釘は刺された。ひどい扱いである。
定時で帰ってもいいと言ったのに、吉継が心配で持っていたようだ。
笠井には連絡しているので、別の運転手が手配されてくるはずだ。
中には入れないので、玄関先で待つ。
「厚木さん」
一旦キッチンに入って行った吉継が、玄関に戻ってくる。
「帰るんですか」
「ああ、まだ出禁中だ」
「どうして厚木さんが自分の家で出禁になるんですか」
「さあ…、そんなことより早く飯を食って寝ろ。お前が心配で山科が帰られない」
「あっ、わかりました。また来ますか」
「近いうちに様子を見にくる」
「はい、おやすみなさい」
と言って、キッチンに戻っていく。
山科が不思議そうな顔をして二人のやり取りを見ていた。
明日には出禁も解けているだろう。
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