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第7話

 厚木の退社が早まったので、運転手も早く帰れる。  車二台と運転手二人で厚木を送り、車一台で運転手が二名帰る。  明日は厚木が自分で運転して出社すれば好きな時間でいいと笠井に言われたのだ。  休日らしい休日がない厚木の、実に数ヶ月ぶりの休みだった。  「厚木さん」  吉継が出迎える。  報告通りのはにかみ笑顔だ。  そのまま跪いて靴にキスしようとしたのか舐めようとしたのか…わからないが、襟首を掴んで止めさせる。  「いいこにしていたか」  「はい」  全然”いいこ”では無い。  このあたりのズレを教育しなおさないといけない。  「聡実さん、こんばんは」  「ああ」  今なら湯加減が丁度いいと言われ、先に入浴をする。  ゆっくり風呂に入るのは久しぶりだった。  茶の間に戻ると、吉継が冷たい水を持って来た。  「ありがとう」  「はい」  吉継が山科と夕食の準備をしている。  「聡実さん、今日のご飯は吉継さんのリクエストですよ」  「何だ」  「肉巻きおにぎりです」  吉継が嬉しそうに言う。  「買い物も一緒にしてくれたんですよ」  昨日とは打って変わって歓迎ムードである。  「おまたせしました」  肉巻きおにぎりをメインとした夕食は、美味しいが吉継に合わせてあるので量が多い。  「視力が悪いのか」  「以前より見えにくくなっています」  「明日は眼科に行く」  「はい、…厚木さんも?」  「送ってやる」  「ありがとうございます」  山科は厚木を生暖かい目で見ていた。      厚木の部屋は、吉継が使っている部屋の向かいに用意された。  きれいにベッドメイクされている。  ベッドサイドの引き出しにはご丁寧に、ローションやコンドームが入っている。  用意がいいことだが、どんな顔して揃えたのか。  使用量など、逐一チェックされるのかと思うと寒気がする。    「厚木さん」  「入れ」  「はい…」  ドアが控えめに叩かれた。吉継を中に入れると、借りてきた猫のように大人しく閉めたドアの前で固まっている。  緊張しているらしい。  でかい図体がもじもじして入口を塞ぐ姿は目障りだった。  「こっちにこい」  「はい」  当たり前のように、ベッドに座る厚木の足の間に座った。  顎を掴んで上げさせる。  「厚木さん?」  「療法士にもこんなことしてるのか」  「こんなことって…、してません。療法士さんは、椅子に座るだけで褒めてくれます」  「そうか」  「厚木さんの気にいることがわからないから…」  「…何度も足に跪いていたな」  「嫌ですか」  「ああ、もうするな」  「はい…」    「機嫌を取らなくていい、普通にしてろ」  「……はい」  気にいられようとしていたのか、あからさまに悄気げている。  「普通がわからないか」  「普通なんかわかりません」  口を尖らせている。拗ねた顔を見ながら頭を撫でてやる。  「厚木さん?」  「かわいいな、吉継」  「?」  「気にするな。|命令《コマンド》を聞くだけでいい」  「”Kneel”」  「はい」    吉継から、最初にした時のような飢餓感は感じていなかったが、コマンドを聞いた途端、明らかに嬉々としはじめた。  厚木の膝に頬ずりしている。  「”Goodboy” いいこだな、吉継」  「もっとしたい」  「わかってる」  先に、お仕置きをしてからだが。  

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