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60 家族への憧れ

 理玖はΩだ──  もちろん避妊もしてるし、今はヒートの時期ではないから妊娠はしないはず。それでも愛しい番を不安にさせてしまうのは俺にとっては不本意でしかない。もちろん俺と理玖の間に子どもができたら、と考えないこともない。子を授かり文字通り「家族」になる。俺にとってこんなに嬉しいことはない。    でもそれは「今」じゃないんだ。 「ごめんな、不安にさせた」 「うんん、平気だよ。奥は……良すぎておかしくなりそうだから……」 「あ、そっち?」 「え? うん、翔、上手すぎて俺、いつも意識がとびそうになる」  理玖はそう言うけど、少なからず妊娠に対する不安もあるのだろう。番になってからは俺に対する不満や不安をあまり表に出さなくなった。気をつかってか、軽く誤魔化すところがあるのもなんとなくわかっている。 「大丈夫、俺の前でならいくらでもとんでいいよ。もっと乱れた理玖が見たい」 「なんだよ。翔のスケベ」  俺の腕の中でふふっと小さく笑い、理玖が顔を埋める。ぎゅっと抱きすくめながら幸せを噛み締めていると、腹の方からグググっとこもった音が聞こえた。 「ほらー、腹減ったって言ってんじゃん。いよいよぐうって鳴ったよ。早く着替えて飯行こう」  ガバッと顔を上げた理玖は、スタスタとシャワーを浴びに行ってしまった。俺はベッドの中に取り残され、可愛い小さな理玖の尻を眺めながら脱ぎ散らかした自分の着替えを取りに重い腰を上げた。  昼間、こうやって二人で出かけるのも久しぶりだ。  二人並んで、時折笑い合いながら会話を楽しみ足を進める。出会ったばかりの頃は考えられなかった穏やかな時間だ。睨まれていた時間の方が多かった俺も、今ではこれ以上ない可愛い笑顔を向けられている。 「翔と一緒に行きたかった店があるんだよね」  不意に理玖が俺の手を掴みきゅっと握った。俺は気にしたことはなかったけど、付き合い初めの理玖は男同士での番の関係を隠したがっていた。もちろん外で手を繋ぐことだって嫌がっていた記憶がある。希少とはいえ男のΩも存在するし、同性で番ったり世帯を持つ者も少なくはない。それでも理玖は過去の経験から、自分がΩで番相手がいるということは伏せたいのだと思っていた。 「……? なに? なんで笑ってるの?」 「いや、なんでもない」 「えー、なにそれ、気持ちわる」  少しずつ、こうやって理玖の心が解放されていくのがわかり俺は嬉しさを隠せない。手から伝わるぬくもりに愛おしく思う気持ちが溢れてしまう。 「もう俺胸がいっぱいだ……」 「は? これから飯なんだけど? 腹一杯ってどういうことだよ。ほら早く行くよ。目的の店、すぐそこだからさ」  呆れ顔の理玖に俺はぐいっと引っ張られる。日に日に増していく俺の思いにこたえてくれるかのように理玖からの愛も伝わってくる。繋いだ手にきゅっと力を込めたら振り返った理玖は笑ってくれた。

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