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61 戸惑いと幸せ

 少し遅めのランチは、最近テレビでも紹介されたことがある人気のカフェだった。理玖の食べたがっていたパンケーキがこの店の売りらしいけど、俺は特別甘いものが好きなわけではないのでハンバーガーを注文した。  目の前で嬉しそうにパンケーキの写真を撮る理玖を見て目尻が下がる。周りを見渡しても女の客ばかり。皆理玖と同じようにテーブルに顔を近付けながらレンズ越しにパンケーキを覗いていて、思わず笑ってしまった。 「なに?」 「いや、早く食おうぜ。にしてもそんな甘いので腹満たされるのか?」 「え、もちろん! あ、ごめんな、待っててくれた? どうしても撮りたかったんだ。翔とここに来た記念にって……」 「………… 」  一々理玖の言動が可愛くて困る。今日は特に機嫌が良いのか、普段の「ツンデレ」の「ツン」の部分はどこかに行ってしまったらしく、こんな理玖はレア中のレアだ。両手をパチンと合わせて「いただきます」と言う理玖に釣られて、俺も一緒に「いただきます」を言う。甘ったるいパンケーキを美味しそうに頬張る理玖を眺めながら大口を開けて絶品ハンバーガーを食べていたら、口元についたソースを理玖が指先で拭ってきたのでドキッとした。  久しぶりに二人でゆっくりとした時間を過ごす。食事の後も街をぶらりと回りながら買い物も楽しみ家路に着いた。    理玖と別れ俺は一人帰宅する──  誰もいない暗い部屋。今まではなにも感じなかった当たり前のことなのに、ふと寂しさが込み上げてくる。終わってみれば楽しくデートもできて充実した一日だったと思えるけど、今朝のことを考えると、なんで理玖の隣に俺ではなく伊吹がいるのか、なんで理玖が俺以外の人間に心を許し甘えるのか、と、苛々ともどかしさ、そして嫉妬心がぶり返す。小さな男だと思われたくないけどこの現状をどうにかしたい。一方で理玖にとって伊吹は親兄弟同然な大切な存在なのだと認め諦めている自分もいる。どうしようもない葛藤にこれから先もずっと振り回されなければいけないのか……  理玖が働いているボーイズバーに顔を出し、少ない時間でも会話を楽しんだり、今日みたいなたまのデートは気持ちが上がる。でもなんでもない日常も一緒にいたいと思ってしまう。当たり前に毎日俺の隣にいてほしい。    テーブルの上に置きっぱなしになっているタブレット。開くと今朝見ていたページがそのまま現れ、溜息を吐きながら俺はそのページをタップする。少し前から考えていて理玖にはまだ伝えていないこと。理玖ならきっと喜んでくれるはず。そろそろ話してもいい頃だろうか。喜んでくれると信じていても、それでも困らせてしまったらどうしようかと不安になる。 「あぁ……こんなに理玖のことで頭がいっぱいになるなんて思わなかったな」  番の存在がなかった頃の自分からは全く想像できなかった愛する人を思う気持ち。  俺は自身の変化に戸惑いながらも、確かな幸せを感じていた。

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