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65 二人で考える「これから」のこと

「うん……嬉しい。俺、翔と一緒に住みたい」 「はは、よかった。嫌だって言われたらどうしようかと」 「なんで? 嫌なんて言うわけないじゃん」  俺は思いがけない翔からの提案に、ただただ嬉しくて浮かれてしまった。俺が持ち得なかった「家族」というもの。俺に欠けていた部分を翔が埋めてくれるのだ。こんなの嬉しい以外にない。 「これってさ、プロポーズ……ってこと?」 「え? いや、あー、まあそうだけど……そうだけどそれはまた改めて、ってことでさ。プロポーズはちゃんとした時に……」  嬉しくて先走る俺を、困ったような顔をして翔が宥める。プロポーズもなにも、もう俺たちは番の誓約を交わしているのに。  俺に同棲の話をなかなか持ちかけられずに、しばらく前から翔は一人で物件を探していたらしく、すぐにタブレットで「ここなんかはどう?」といくつか提案してくれた。どの物件も二人で生活するには十分すぎるくらいの良物件だった。  主寝室は一つでいい。日がたっぷり入る明るいリビング。観葉植物も置いて、二人でゆっくり寛げる大きめなソファも欲しい。二人の休みが合った日は、部屋で映画も楽しめるようにホームシアターも欲しいけど、それはちょっと贅沢かな、なんて、これからの生活を想像する。二人で考える「これから」のこと。それは現実味があって俺にとって幸せこの上ない時間。卑屈になり気持ちが沈んでもこうやってかけがえのない翔が救い出してくれる。改めて「幸せ」を実感し、浮かれていた俺は不審者のことなどすっかり頭の中から消えていた。 「これからは伊吹さんじゃなくて全部俺に甘えてほしい」  翔は「まあこれは俺のヤキモチみたいなもんだから」と笑っていたけど、確かに翔から見たら俺の態度は面白くなかっただろう。俺にとっての伊吹は家族、兄、父親のようなものだと理解してても、それでも一度だけ体を交えてしまった事実が恐らく翔にとって枷のようになっているのだ。きっと俺は翔に甘えて、伊吹に対する態度が度を超えていた。「ごめんね」と今更謝ったところでなんの慰めにもならないだろう。 「俺は翔のものだよ……」 「…………」 「翔は?」 「理玖は俺の全てだから」 「ふふ、熱烈。愛してる……キスして」  言葉にしなくとも思いは互いにちゃんと伝わっている。それでも言葉にして、体で感じて、確認し合う。照れくさいけどどちらかがこうやって表に出せばすぐに甘い空気になるから安心するんだ。  隣に座る翔が俺に寄りかかるようにして体重をかけてくる。いつものように腰に手が回り、優しく丁寧に抱き寄せられれば、自然と「ベッド行く?」と言葉が溢れた。

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