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67 新生活の準備

 翔と同棲──  伊吹にはそのことをすぐに伝えた。 「いいんじゃない? 俺もその方が安心だ」  家族同然の伊吹にも背中を押してもらい、休みを利用して翔と二人ですぐに目当ての物件の内覧をしに行った。伊吹の「早い方がいい」という言葉通りに、最初に見せてもらった部屋で即決し、そのまま契約を済ませる。俺は目の前の幸せに、ただただワクワクし浮かれていた。郊外で店からはだいぶ遠くなるけど、今より広い綺麗な部屋。家賃は翔と二人で折半するから問題はない。もとより今のボロアパートの家賃が破格だっただけで特別贅沢をするわけではないのだ。  契約を済ませた後、休憩がてら近所のカフェに入る。平日の真昼間。翔と付き合う以前の俺はこんなに明るい時間帯に外へ出かけるなんてことはほとんど無かった。食に対する欲も無く、仕事で疲れた体を休ませるということを口実のようにして、ただただ部屋でだらけていた毎日。夜に人肌を求め出歩くことはしていたけれど、満たされることのなかった毎日。  俺の日常に当たり前のように翔が加わる。ひとり孤独で燻んでいた世界に色が付く。今まであまり考えないようにしていた自分の「未来」をこうも容易くイメージできるようになったのは、紛れもなく目の前にいる翔のおかげた。 「ありがとな。翔……」 「ん? 何が?」  カップに口をつけ、目線だけ俺にむけた翔は、小首をかしげた。大きな窓から差し込む柔らかな日差しが俺たちを包む。きっとこのまま俺は翔と共に生きていく。諦めていた当たり前の幸せを掴ませてくれた大切な人。まだまだ恥ずかしくてうまく素直な気持ちを伝えることができないけど、翔はちゃんとわかってくれていることを俺は知っている。逆もまた然り……  あまりいい思い出のないあの部屋を出る。親に捨てられ一人になってもずっと心のどこかにこびり付いていた罪悪感のようなもの。それが少しずつ薄れていくのがわかった。  引っ越しも決まり、俺は元々少なかった荷物をまとめ始めた。翔は就職を機に実家を出ることになるから、新生活に向け、俺以上に家具やら生活用品を買い揃えることになる。 「寝室はさ、やっぱり分けるの?」 「せっかく広い部屋を借りるんだよ、俺らは昼夜の生活リズムが全く違うんだから寝室は分けたほうがいい」  寝室のベッドをどうするか、ネットであれこれ検索しながら翔は口を尖らせる。俺と違って翔は昼間の仕事に就くから、寝室は分けた方が絶対いい。俺がいくらそう言っても納得いかないのか、翔は不満そうな顔を見せる。 「わかってるよ…… でもお互い休みの日とかあるだろ? 俺だって翔と一緒に寝たいって思ってるし……何も絶対別々で寝るって言ってるわけじゃない」  そう言ったらあからさまに目を輝かせた翔に抱きしめられた。  なんだよこれ、恥ずかしいな。  俺たちは新婚よろしく、かなり浮かれた気持ちで新生活への準備に励んでいた。

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