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69 安心

「翔……?」  心臓が飛び出しそうになりながら振り返ると、心配そうな顔の翔がそこにいた。 「メッセージ見て飛んできた。で?」 「あ……れ? うん、もう大丈夫みたい」  先ほどまでの気配はもう無く、周りを見ても怪しい人物などは見当たらなかった。翔に聞いても同様。結局つけてきていた人物を確認することはできなかったけど、それでも翔は俺の腕を取りさりげなく警戒してくれた。 「いやマジでさ、伊吹さんだって心配してるんだし、随分前から言われてただろ? もっと慎重に──」 「わかってるよ。そうだよな。ごめん……正直さ、害はないと思ってたんだ。でも今日の感じはちょっと怖かった。来てくれてありがとう」  先程まで恐怖でうるさく脈打っていた心臓がいつもの調子に戻っていく。翔が来てくれたおかげですっかり恐怖心は消え去り、つけられていたなんて勘違いだったのかもと思うくらい安心していた。半身に感じる翔の温もりに自然と頬が緩み、何度も「ありがとう」「来てくれて嬉しい」と素直に言葉を溢していた。  このままアパートまで送ると言ってくれた翔と一緒に並んで歩く。こんな時だし人通りの少ない深夜ということもあって、俺は抵抗なく翔と腕を組んだまま歩き、「今日はしおらしくて可愛いんだな」とちょっとはにかんだ翔に言われるまで自分が甘えていることに気がつかなかった。 「今日は泊まっても?」 「え? あぁ……」  アパートの前まで来ると、遠慮気味に翔が口を開く。当たり前にこのまま一緒にいてくれるものだと思っていたのが恥ずかしくて「えっと……色々と荷物が占拠していて邪魔くさいけど、それでもよければ」なんて俺はすまして言った。  だいぶ散らかってはいるけど、ベッドと主な生活用品以外は荷造りが済んでいて段ボールの中に収まっている。もとより生活用品は少なかったからもういつでも引っ越しができる状態だった。実際引っ越しの日は明後日で、当日は伊吹も手伝いに来てくれる。こんな引き払う準備が万端な部屋で翔と二人きり。否応なしにこれからの生活への期待に胸が膨らんだ。 「いよいよだな。これからはずっと一緒だ」  ぐるっと殺風景な狭い部屋を見渡す翔が幸せそうに囁く。互いにシャワーも済ませ、ベッドに身体を寄せ合い布団に包まった。翔は俺の頬に手をやり慈しむように何度も何度も優しいキスをしてくれる。そんな優しさにこそばゆくなりながら、俺はふわふわとあたたかい気持ちになっていった。  翔がそばにいてくれるだけで俺は安心する。このまま穏やかな気持ちのまま眠りにつきたいのに、頬を掴まれ抵抗できない俺に深いキスをしてくる翔に抗うことなどできなかった──  俺に覆い被さる翔の心地の良い体の重み。少し乱暴にも感じる弄る手のぬくもりに、体の奥底から快感が湧き上がってくる。翔と番になってからも幾度となく体を交えてきたけど、今まで感じたことのない多幸感に毎度毎度俺は泣きそうになっていた。 「──大丈夫か?」 「………… 」  翔の滾ったそれを受け入れながら、込み上げてくる快感を逃すように小さく息を吐く。先ほどの件があったからか、翔は幾分過保護に俺に接する。俺は翔が思っているほどダメージは受けていないのがわかるから申し訳ない気持ちになった。怖かったのは嘘じゃないけど、結果何事もなかったわけだし心配したってしょうがない。そんなことより…… 「早く、いいから俺を気持ちよくして」  わざとなのか、ゆっくりと律動するのがもどかしく俺は強請るように翔の腰に足を絡める。頭の中まで翔でいっぱいにしたいから、誘うようにキスを貪り自ら腰を畝らせた。

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