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第3話

触れていないところがないくらいに肌を味わって記憶した お互いの官能を引き出すために、なんでもした 身体が動き、よじれ、揺れた 僕たちは死ぬために、相手を殺すためだけに脳と身体を使った お互いに叫ぶのを止めることができなかった 長かったのか?短かったのか? 渦にのまれるように、僕らは暗闇に落ちていった 泣きながら胸を上下させている。自分がなんで泣いているのかわからない。 理性が追い付かない身体の煌めきで、タガがはずれたように涙があふれてくる。 ミサキの唇が耳から首筋に流れた。 そうだ、僕はミサキと一緒にいたんだ・・・。 今まで知らなかった感覚に身震いする。初めて自分の身体が自分のものだと思える感覚。 普段生きていることなんか意識していないのに、今は生きていると強く感じていた。 指一本動かすのも億劫なほどなのに、身体が軽い。 生まれ変わった? そうか、僕は生きているんだ。死を経験して戻ってきた。 ミサキが僕を殺して、また命をくれた・・・。 その日から僕はミサキと店を往復している。 飽きることなく互いを求めて夜が終わる。そしてまた朝がきて、夜がくる。 ミサキに抱かれるたび、自分から無駄なものがそぎ落とされていくような気がした。 ミサキの腕があれば今、なにもいらない。 「なんか最近雰囲気かわったよな。」 重さんに言われる。 「ほんとですか?自分じゃわからないですよ。」 「う~ん、なんていうかな、ヤバイ感じだな。」 「重さん、ひどいですね、ヤバイだなんて・・・アユちゃんが使ったら怒るじゃないですか。」 「いや、他に思いつかなくて。な、久、そう思うだろ?」 久と呼ばれてマスターが振り向く。重さんとマスターは小学生の頃から友達だから、今更マスターなんて呼べるかと以前重さんが言っていた。 「ああ、確かにね。まあ、店にとっては御の字だけど。」 「どうしてですか?」 「智目当ての女性客が増えたな。メニューよりもお前を先にみるだろ。すぐわかる。」 「おう、そのとおりだ。」 重さんまで・・・ 「メニューよりも、俺が作った料理より、お前を見る男の客も増えたぜ。」 「重。お前あんまりトモを中で使うなよ。ホールで笑顔をふりまいてもらわないといけないんだから。」 そんなことをいいながらマスターは買い出しにでかけた。 二人の言っていることはわかる。僕の命が強くなったから、きっと何かが溢れているんだ。 店をでてミサキへと向かっていた時、携帯がなった。 哲平だった・・・。僕はミサキに出会ったその日から、哲平に会っていない。 出ないわけにはいかない。 「もしもし?」 『生きてた?』 「うん」 『さすがに10日も連絡よこさないから、心配したよ。』 この時思ったのは、哲平を10日もほっておいたことじゃない。 僕が思った事-ミサキとの時間が10日も無くなってしまった。 「仕事忙しい?」 『うん、シフトが変わったんだ。朝と夜になったから。まだ身体が慣れてなくて、正直きつい。』 これは本当だ、嘘じゃないよ。 『そっか、でもそんな僕はエロジジイみたいにトモを困らせることはないから、たまには帰っておいでよ。』 冗談めかしていう哲平にイライラする。別に哲平が悪いわけじゃないのに。 哲平のSEXが脳裏をかすめる。安堵をもたらす素敵な時間。 でもそうじゃない。僕は違うSEXがあることを知ってしまった。哲平が僕にそれをくれることはないだろう。 安堵・・今の僕にそれは必要がない・・・。 哲平との関係は、ミサキと僕の間にあるものとは次元が違う。まったく違う二つを比べることなんかできない。だからなのか、まったく哲平に対して罪悪感がないし裏切っているという気もしない。 僕は人でなしだね。 それに今僕はミサキの処にいかなくちゃいけないのに、電話の会話に縛られている。 時間がないのにイライラする。 『ほんとに疲れているんだね。』 あんまり僕が黙っているから哲平が話しだす。 『智が心配だったのもあるけど、僕は明日から10日間出張に行くんだ。』 「どこに?」 『仙台。智の好きな牛タンと牛タンの煮込み、あと空港にある、なんだっけ?なんだかっておじさんが作った納豆を買ってくるよ。』 哲平がふいに口をつぐんだ。僕は何かいうべきなのか?哲平? 『・・今度二人でどこかにいきたいね。近場の温泉でもいいし。休みがあったら行こうよ』 僕の様子がおかしいのに気がついたんだね、哲平。だから温泉にでもいこうかって言うんだね。 ミサキがいなくなった後なら行けるかもしれない・・・ やっぱり僕はひどい人間だ。 「うん、じゃあ出張から帰ったら連絡してよ、会いにいくから。」 今の僕にはそれが精一杯だった。 哲平が帰って来る頃、もう10日しか時間が残っていない・・・ 僕は突然怖くなって、ミサキに向かって走り出した。

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