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第12話 リロン

三人で店の片付けをすると、あっという間に終わった。ジロウの方の片付けは、武蔵が全面協力していた。 キッチンの片付けはリロンが手出し出来ないところがたくさんあるので、武蔵のサポートにより、いつもよりキッチリと手早く片付けを終了することが出来ていた。 ジロウを見ると嬉しそうにしているのがわかる。それに、少しホッとしているような気もする。忙しくなった店のキッチンは、ひとりでは大変だったんだと、今更ながらわかった。 「お邪魔します!」 武蔵を迎えて三人でジロウの自宅に上がる。そういえば、ここにリロン以外の人を招き入れてるのは初めてだった。ジロウは、今までも誰か他の人を自宅に連れてくることはなかったなと、リロンは考えていた。リロンに気を遣っているのだろうか。 3階のバスルームにリロンが武蔵を案内し、ジロウの服を着替えとして渡してあげた。シャワーが終わったら2階に来てねと言い残し、リロンは2階のベットルームに行く。2階では武蔵がソファで寝れるようにと、ジロウが準備をしていた。 「ジロウさん、今日は俺がソファで寝るよ。武蔵さんも体が大きいからソファよりベッドの方がいいんじゃない?」 「えーっ、やだよ。武蔵と一緒に寝るの」 「だって、ベッドはキングサイズでしょ?二人共、身体は大きいけど、一晩くらいなら何とかいけるでしょ。俺はどこでも大丈夫だし」 「ダメ!絶対、嫌だ。身体が大きい奴と一緒に寝るのなんか嫌に決まってるだろ?それに武蔵は朝早く帰るから、ちょっと横になるだけでいいんだよ」 何故か譲らないジロウに、リロンが呆れていると武蔵がシャワーから戻ってきた。 「すっげぇとこに住んでますね、ジロウさん。何、あのバスルーム。外国かよっ。ホテルみたいだった」 武蔵からエルメスのシャンプーの匂いがする。ジロウのやつを使ったんだなとわかるが、同じシャンプーでもジロウとは違う匂いがするような気がする。 「武蔵、ここのソファ使ってくれ。ちょっと狭いけどな」 リロンが口出しする前に、ジロウは武蔵にソファで寝るようにと誘導していた。 「ありがとうございます。ソファもベッドもデカいですね。この家は全部規格外の大きさ。あ…やっぱり、ベッドは二人で寝てる?でしょうね、うんうん」 また武蔵が勘違いしている顔をする。 「ほら、リロン行くぞ。シャワー浴びて早く寝ないとな」 「あっ、はい」 二人で3階のバスルームに向かおうとすると「マジ?シャワーまで一緒?どんだけ仲がいいんだよ…まぁ、いいでしょう!」と武蔵の声が後ろから聞こえた。 今日は金曜日で、いつもより忙しく、片付けやら何やらと時間がかかってしまった。それに、武蔵というお客様も自宅に招き入れているので、そっちでも時間を取られている。だから、時間短縮のためシャワーは二人同時に浴びようと、ジロウからの提案があった。 いつもはどちらかが浴びている間、もう一人はバスルーム内の椅子に座り、話をしているか、鼻歌を歌っていた。それに、休みの日はバスタブに湯を張り一緒に入ることもある。 真っ裸でバスルームに二人で入ることは日常であり、抵抗はない。今日もそれとさほど変わりはないが、シャワーを同時に使うのは初めてだった。 「ねぇ…ジロウさん。これだったらいつもみたいに交互にシャワー浴びても同じじゃない?そんなに時間短縮にはならないよ」 バスルームは広いとはいえ、シャワーはひとつである。 だから、ひとりがシャンプーの泡を流している間、もうひとりは泡まみれで突っ立って待っていることになる。 「よく考えろよ。頭から足まで全身を洗うだろ?で、その後交互に泡を流せば…ほら、時間短縮できるだろうが」 「だって、ほら!こうやって、ジロウさんが泡を流してる間、俺は泡まみれで待ってるじゃん。早く流さないと、泡が目に入ってくるんだもん。それなら、交互に入った方が素早くできると思うんだよね」 ジロウが泡を流してる間、リロンは待っていた。早く泡を流したいなぁって思ってると、腕を掴まれてシャワーの下に連れてこられた。後ろからジロウに抱きしめられているような格好になってしまった。 「うわぁっ!何?」 「何って、泡を流してやってんだろ?お前がグダグダ言うから…」 「うっ…目に入る…」 「目は閉じておけよ。髪は…ほら、これでいい?お客様〜気持ち悪いところはありませんか?洗い流し忘れはありませんか?」 後ろからジロウに髪をすかれ、シャンプーの泡を流された。ヘアサロンのお姉さんの口調を真似て、ジロウはふざけているので、そのノリに付き合ってあげた。 「あー…右の耳後ろがまだ流し忘れですね。後は頸もお願いしま〜す。上手ですねぇ〜」 「ありがとうございますぅ〜!頸もですね〜。この後、トリートメントしますぅ?お客様には特別に、こちらディオールのソヴァージュを使いますね?」 「ありがとうございますぅ。ディオールのソヴァージュ好きなんですぅ」 二人で笑いながらヘアサロンごっことなり、いい年をした大人二人で、バスルームで笑い転げる。 こうやって二人でふざけ始めると、なかなか止まらないことはわかっているが、それが楽しいこともわかっている。 エルメスの匂いがしている。 ジロウの匂いだ。 バスルームの中でゆっくり大きく深呼吸すると、ジロウの匂いが身体いっぱいに広がっていく。 すぐ後ろにはジロウがいて、肌が触れ合っているのがわかる。何だろう…嫌な気はしない。それよりも、安心する気持ちが強い。もう少しジロウに寄りかかりたいなと、リロンは思ってしまう。 「リロン、多分な…明日の夜も武蔵は手伝いに来るぞ。店がさ、忙しくなってきたから誘ったんだよ、うちでやらないかって。期間限定だけどな」 「本当?わぁ!ありがたいよね。俺はさ、キッチンは何も出来ないし。武蔵さんがいればジロウさんも楽なんじゃない?」 頸を優しく撫でられながら、明日の夜の話をする。 「それより、明日はランチもあるから。ヤバっ早く寝ないとね」 「やっべぇ、そうだった。早くベッド行こうぜ。あー、髪乾かすのめんどくせぇな…このままでいいか」 「俺は絶対、イヤ。髪は乾かしてくるね」 そう言い、リロンはひと足先にバスルームを出た。 ジロウは後ろでリロンを見て笑っている。バスルームの中でジロウの笑い声が響いていた。

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