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第24話
「すげ、イッちまった?」
「まだこんなもんじゃねえぞ」
「っは、ぁっ、やめ」
鈴口にローターをあてがい、こまめにリモコンを調節する。強制的に刺激を送り込まれ、萎縮しきったペニスが徐々に勃ち上がっていく。
「あっ、く、ぁふ」
凶悪な振動が腰を揺すり立て、眼鏡がずれて視界が傾ぐ。裏筋に当てられると一際強い快感が襲い、唾液の糸引く舌が突っ張り、呂律が回らなくなる。
「ふざけ、ぁあッ、ぁっぐ、抜け」
「イきながらイキっても笑えるだけ」
舎弟がローターと一緒に股間を捏ね回す。カウパーの濁流が滴り、粘っこいぬめりに乗じ密着度合いが強まる。
「あっ、ふ、痛」
「あーあ、シート汚すなよ記者さん」
思考が濁って拡散していく。初体験のローターがもたらす刺激は一方的で抗い難く、瞬く間に追い上げられる。
ペニスが完全に勃起したのを見計らい、舎弟が会陰にローターを置く。
「ッ、ん!?」
「前立腺で感じちゃった?前ドロドロ」
「素質あるぜ」
悠馬とリーダーが野次を飛ばす。視姦の屈辱に全身が火照り、罵倒しようと開けた口を反射的に閉じる。
「んん゛っ、ん゛っ」
「力抜け」
「んなとこ入るわけね、ィぐ、裂ける」
臓腑を裏漉しする異物感と圧迫感。固く綴じた排泄器官をこじ開け、ローターがめりこむ。腸壁にプラスチックが擦れて刺激を生む。
「ちょっと興奮してきたかも」
悪い夢なら覚めてくれ。悠馬が遊輔の股間にスマホを近付け、ヒク付くペニスを撮る。その間もローターは奥へ奥へと進み、腹に詰め物される息苦しさに慄く。
「いっ、ぁ」
無機質なローターが敏感な粘膜を巻き込み、前立腺のしこりを潰す。
「イッツショータイム」
スイッチがオンにされ、体内に仕込まれた異物が容赦なく暴れだす。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッぁあ!!」
尻の奥から連続して聞こえるくぐもった機械音。肉襞に挟まったローターが前立腺を揺すり立てる。
ろくに慣らしもせず突っ込まれ、裂けたアナルから血が散った。
「処女膜破けた。ヴァージン喪失おめでとさん」
「て、め、殺、す」
腹の奥に振動を感じる。ひり出そうと息み、ますます強く喰い締める。
ローターの動きに合わせてペニスがもたげ、脈打ち、イきたくねえと踏ん張る気持ちと裏腹に絶頂へ近付いていく。
「ふ、ぐ、ぅぐ」
なんでこんな目に。俺が何したってんだ。リーダーが遊輔の顔面にスマホを突き付ける。
「解除したくなったか」
「ボケが」
「電池切れまで放置すんぞ」
「ぁ゛ッ、ぁぐっ」
ローターが最強に切り替わる。瞼の裏が真っ白に爆ぜ、透明な雫が散る。
「ふ…………、」
シートの水たまりを見て心が折れた。腹の奥では初体験の淫らなオモチャが絶え間なく暴れ、自分で触ったことすらない前立腺を責め苛む。
小刻みに震える手でスマホを操作し、ロックを解除する。同時に場違いな着信音が響き、小窓に薫の名前が表示された。
液晶に輝く名前を見た瞬間、途轍もない安堵が襲った。薫は無事だった。
リーダーが出ろと目で促す。
できるわけがない。必死に首を振る。もしローターの音が聞こえでもしたら、二度と顔を合わせられない。
遊輔の内心の焦燥には取り合わず、リーダーが受話器マークをタップしスピーカーに切り替える。
覚悟を決めて電話に出る。
「……もしもし」
『遊輔さんですか』
「誰といる?突然店から消えて面食らったぜ」
心配したと言いかけ訂正すれば、電話の向こうに沈黙が落ちる。
『フェアリーフェラーと一緒です』
「は?」
衝撃の告白に束の間思考停止に陥る。生唾を飲んで聞き返す。
「なん、で」
『春人の母親が言ってましたよね、僕と息子は似てるって。シリアルキラーのターゲットにはパターンがあるんですよ、寄せるのは簡単でした』
「お前最初から」
『会えたらいいな、位の賭けでした』
薫の実父は実力派俳優の蓮見尊。息子も演技の才能を受け継いでいる。
『春人の癖や振る舞いは故人を一番よく知る人に付きっきりで聞かされましたから、まねるのは簡単です』
「今どこだ、無事なのか?なんで勝手に」
『忙しそうだったんで』
「答えになってねえよ!!」
怒鳴った拍子にローターの位置が変わり、駆動音が高まった。薫が訝しげな声色で疑問を呈す。
『何の音ですか』
「……っ、」
答えに迷って唇を噛む。痺れを切らしたリーダーがスマホをひったくり、横柄に聞く。
「コイツの仲間か」
『誰ですか』
「ケルベロスのヘッドだ。サウダージじゃ世話んなったな」
『……なんで遊輔さんと』
「仲間が店にお邪魔してな」
幸い薫の顔は割れてない。今すぐ通話を切れば身バレは防げる。そうしろと念じる遊輔の心を裏切り、薫が鋭く聞き返す。
『拉致ったのか』
「動画のデータを返せ。お前も持ってんだろ」
「聞くな薫、どっちみち俺は」
続く言葉はローターの振動で消し飛んだ。腹の奥をかき回され声が上擦る。
「ッふ、止め」
『遊輔さん?遊輔さん!』
リーダーが遊輔の口元にスマホを近付け、舎弟がわざと水音を立てペニスを捏ね回す。
「可哀想に。寸止めは苦しいだろ」
「ぁっ、あっ、手えはなっ、聞くな薫早く切れっ、ふあっ」
『何してんだよ!』
「何って?」
「言うな!!」
言葉を遮ったお仕置きに強く掴んで射精を塞き止め、得意げに宣言する。
「テメエの相棒にローター突っ込んで遊んでんだよ。ほら、エロい喘ぎ声聞かせてやれよ」
「どけ、ろ、う゛ッぁ」
スマホの向こうに重苦しい沈黙が落ちる。薫がどんな表情を浮かべているのかはわからない。車内にはローターの電動音と卑猥な水音、苦しげな喘ぎだけが響く。
なんで切らねえんだ。とっとと切れよ。
「悠馬のデータをよこしゃ相棒は帰す。交換だ」
「かお、る、切れ」
お前にだけは聞かれたくなかった。
「たの、む、ぁッ」
死にたいほどみじめで恥ずかしくて、なのに尻は初体験のローターを喰い締めて、ペニスはしとどに汁を流す。
『……わかった』
「よし。九時にブツを持ってサウダージに来い」
漸く通話が終了した。生命線が潰えた絶望とこれ以上薫に聞かれずにすむ安堵が同時に訪れ、乾いた笑いを漏らす。
「いい加減止めてくれ」
「勘違いすんな。お前は人質だ」
それからが地獄だった。ローターは尻に突っ込まれたまま、舎弟が摘まみを回すたび体が跳ねる。後ろの刺激だけでは上手くイけず、前に伸びそうになる手を辛うじてねじ伏せる。
十五分は経過しただろうか。
「ッふ、うっ」
アスファルトを噛む車の振動とローターの振動が二重に響き、ぐずぐずに恥骨を蕩かす。前屈みに腹を抱え、生殺しに耐え続ける遊輔の耳に、運転手の舌打ちが届いた。
「マジかよ。サツだ」
フロントガラスの向こうに赤いランプを回すパトカーが止まり、警官が数名並んでいる。中の二人がこちらに気付き、足早に運転席に寄ってきた。
年配の警官が窓をノックし、慇懃な物腰で申し出る。
「検問にご協力お願いします」
「なんかあったんすか」
「当て逃げ車両が逃走中と通報があったんです。念の為ナンバーを控えさせていただけませんか」
「はあ……かまいませんけど」
リーダーと運転手が目配せを交わす。当て逃げならケルベロスは無関係、下手に抗えば事態がこじれる。リーダーと舎弟に挟まれた遊輔は俯いたきり、自分の腹から聞こえる忌々しい音に悩んでいた。
いちかばちか助けを求めるか。覚悟を決めて口を開いた途端、ペニスを掴まれ気力が挫けた。
「余計なこと言うな。握り潰すぞ」
言うことを聞くしかない。警官たちの帰りがやけに遅い。リアウィンドウを注意深く一瞥すれば、険しい形相で話し合っていた。
今度は若い方の警官が運転席に来て、毅然とした口調で告げる。
「下りてください」
「は?なんで」
「あなたの車のナンバーが当て逃げ車両と一致しました」
耳を疑った。それは他のメンバーも同じと見え、理解不能な表情で凍り付いてる。
「任意同行を求めます」
「職権乱用じゃねえか」
「ダッシュボードにのってるのはスタンロッドか?」
「ただのインテリアだよ」
結論から言えば、ケルベロスが揃いも揃って半グレファッションに身を包んでいたのが仇になった。顔や腕にタトゥーを刻み、武器を携帯している者もいた。
この手のタイプが検問を素通りできる確率は極めて低い上、当て逃げ車両と同じナンバーということは。
運転手と警官が揉め始め、向こうのパトカーから応援が駆け付ける。悠馬の顔が強張り、リーダーが気色ばんで腰を浮かす。
やるなら今だ。肺活量の限界まで深呼吸しー
「おまわりさん助けてくれ、誘拐された!」
半グレの注意が警官に逸れた隙を突き、カーステレオの爆音に負けじと叫ぶ。
リーダーと悠馬の顔色が豹変、険悪な形相で掴みかかる寸前に警官が動く。
「詳しい事情を聞かせてもらいましょうか」
前と後ろをパトカーが塞ぐ。運転手の顔がみるみる青ざめ、悠馬が動揺露わにスマホを叩く。
「お、親父に電話しねえと」
今だ。
リーダーの手からスマホを奪還、その膝に乗り上げ右ドアに突撃をかます。素早くロック解除、路上に転がり落ちる。
「テメエ!!」
背後で怒号が炸裂、追いかけてきたリーダーを警官が制す。悠馬は周囲の状況など一顧だにせず、虚しくスマホを叩いてべそをかく。
「何やってんだ早く出ろよ!!」
「大丈夫ですか、怪我はありませんか」
心配そうに取り囲む警官を突き飛ばし、片手でズボンを引き上げ走り出す。
「はっ、はっ」
「やばっ露出狂?」
「うける~」
通行人が俄かに色めきだち、ある者は顔をしかめ、ある者は笑って遊輔を指さす。ほっとけ。
ネオン輝く繁華街を全速力で駆け抜け、雑居ビルの谷間の狭い路地に転がり込み、勢い余ってゴミ袋の山にダイブする。
「っぶ!?」
倒れた拍子にローターが引っこ抜け、転々と路上ではねた。目が回る。苦しい。
「薫」
連続殺人鬼と一緒にいる相棒の顔が浮かび、ずれた眼鏡を直して液晶を見下ろし、遊輔は固まった。
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