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第28話
遊輔は裏社会の取材によく行った。
刑事・探偵・水商売・ヤクザ・半グレ・チャイニーズマフィア、取材対象は人種国籍問わず多岐に及ぶ。
犯罪歴のある者も少なくない、というか前科者が大半。カタギの方が稀。
気付けば真っ当な記者がやりたがらない汚れ仕事ばかりが回ってくるようになった。
『新宿に実在するヤクザマンションの異常な日常』『三合会が密航に関与か?歌舞伎町で勢力拡大中の中国マフィアの目的』『サイケデリックトランスの危険な実態 半グレが取り仕切るクラブ薬物に注意せよ』『繁華街に蔓延する脱法ドラッグの流通経路を徹底追跡!』……毎号の如くセンセーショナルな特集が組まれ、その記事が人気をとると、遊輔を裏社会専門の記者と見なす傾向はさらに強まった。
取材期間はまちまち。
短くて数週間、長くて数か月から数年。
裏社会の住人とコンタクトをとり、何回何十回も取材を重ねるうち、親しい人間が増えていった。
ヤクザの麻雀仲間ができた。刑事の飲み友達ができた。「店には内緒だよ」と言い含め、特別サービスしてくれる風俗嬢もいた。
その一人に凄腕の鍵師がいた。
当時、遊輔は車上荒らしや空き巣を生業とする、外国人窃盗団を取材していた。
彼はそのチームにおいて唯一の日本人メンバーであり、技能検定に受かり、正規の免許を持った鍵師だった。
年齢は六十代後半。身を持ち崩したきっかけは生来の酒癖の悪さと趣味の競馬。
根っからギャンブル好き、それも下手の横好き。
やがて闇金に手を出し、多額の借金を作り、妻子に逃げられ店を畳まざる得なかったそうだ。
その闇金の経営者が在日韓国人だった関係で、借金返済を兼ね、留学ビザが切れた韓国人から成る窃盗団に接収されたのだと立ち飲み居酒屋でぼやいていた。
『日本人だけじゃねえ。中国人も韓国人もインド人もロシア人も、俺のケツの毛むしる連中はみんなクソだ』
だがしかし、彼はまだ幸運だった。借金が返済できず、遠洋マグロ漁船に放り込まれた同類に比べれば。
『あんちゃん知ってるか。ヤクザに借金するとな、マグロ漁船に乗せられるんだ。船の上はぐらぐら悪酔いするし、そこらじゅうにゲロ吐き散らかして最低の気分だよ。リアル蟹工船さ、釣んのはマグロだけど。でもよゥ、使えるならまだマシだ。最底辺にゃもっと酷え生き地獄が待っている。肉体労働が向かねーヤツは、乗組員の便所にされんのさ。野郎だって関係ねえ、穴は付いてんだろ。死んじまったらバラして魚の餌』
まるで見てきたように語り、遊輔のおごりの焼き鳥を頬張る。歯抜けの口はかさかさに乾いてひび割れ、アルコールが匂った。
ピッキングのやり方は彼に伝授された。
天才鍵師の肩書に偽りあらず、自業自得で落ちぶれたとはいえ、男は紛れもなくプロだった。
曰く、ピッキングに嵩張る道具はいらない。ピックとテンションだけで事足りる。
『合鍵を使うのが一番簡単。それがねえ時はカム送り。テレビで見たことねえか、針金かちゃかちゃやるアレさ。所要時間は十分程度。鍵穴じゃなくて、錠ケースを針金で捜査して解錠するんだ。錠ケースが表に付いてねえ場合は、鍵穴のシリンダーカラーを引っ張り露出させる。針金が折れてケース内に落っこちると故障のもとになるから気を付けろ。ピッキングはもうちょい複雑で、かかる時間は大体三十分。鍵穴ん中に入っているピンをピックで押して、疑似的に鍵が差し込まれる状態を作るんだ。要は詐欺にかけてんだよ。で、ピンを正しい場所まで押し込む。勘と根気がいる作業だ』
男が素早く指を動かす。
『ピッキングできる鍵の代表例はディスクシリンダーとピンシリンダー。後者は新しい家だと対策済みんとこが多いんで避けるのが無難。初心者におすすめなのはバンピングだな、ハンマーでバンプキーを叩いて開けるんだ。これなら五分とかかんねえ』
『なら教えてくれよ、オッサン』
以上の経緯を経て、遊輔は鍵師の弟子になった。授業代は酒をおごることで手を打った。
深い考えがあったわけじゃない。同棲してた女に閉め出された時、鍵開けの仕方を知ってれば便利だろうと踏んだのだ。
その他に理由を挙げるなら、部屋を荒らした空き巣の存在。恐らくは遊輔が取材した誰かの関係者、もしくは敵対者の仕業。
原稿を保存したパソコンは常に持ち歩くようにしていた為、間一髪で難を逃れたものの、やられっぱなしで泣き寝入りは癪だ。切り札は多めに持っておきたい。
『鍵開けのコツなんか覚えてどうすんだ?』
『特ダネ掴みにガサ入れすんの』
この冗談はそこそこうけた。『アンタならやりかねねえ』と、心外なのか有難いのか、リアクションに困る評価も貰った。
手先の器用さには自信があった。物覚えも悪くない。付け加え、伝説の鍵師が先生と来た。
結論として、遊輔には不法侵入の才能があった。
悪運も大いに味方した。
「ちんたらやってる時間ねえから、リビングの掃き出し窓割って入ったんだけど、そのぶんじゃ聞こえてなかったみてえだな」
妻子を虐げる暴君夫と同じ自惚れが、殺人鬼に警戒を怠らせた。
地下室はフェアリー・フェラーにとって聖域、プライベートの仕事場。言い換えれば絶対的安全圏である。
その存在を知るのは工事に携わった業者と被害者だけときて、妻子を虐げる暴君夫がしばしばそうであるように、密室での警戒を怠る。
「持ってきてよかった」
右手に掲げたのはコンパクトなソケットケース。背広の内ポケットにすっぽりおさまるサイズ。
「爆音で音楽かけてくれたのも有難え。おかげでばれずにすんだ」
鍵が掛かっている、ということは今まさにお楽しみ中。作業時の物音は親愛なるクイーンの歌声と演奏がかき消してくれる。
「悪趣味なお遊びに夢中で、気付かない方に賭けた」
フェアリー・フェラーの失態。薫を嬲るのに意識を持ってかれ、背後への注意が疎かになった。
「泥棒?」
「ツレを盗みにきた」
「簡単に入れるわけが」
「ところが入れちまうんだよこれが。さすがプロの入れ知恵、天才直伝のスキル」
フェアリー・フェラーの誰何に不敵な笑顔を返し、手の内をばらす。
「テメエがダークウェブに上げた動画にほんの一瞬、チラッとドアが映りこんだ。それが決め手。拡大画像を知り合いに送って、必要な道具と攻略法を聞いたんだ」
何十回、何百回と見返した。吐き気を堪えて隅々まで観察し、漫然と流し見ている人間なら、断じて気付き得ない瞬間を捉えた。
「錠の種類さえわかりゃこっちのもん。がっぽり授業料ふんだくられたが」
「イベントに犯人が来る保証なんてどこにも」
「接触できるかどうかは賭け。けど当たった。どんなに勝ち目がなかろうが、ほんのちょっとでも特ダネ掴める可能性あんなら手え打っとくに越したことねえ」
犯人とニアミスしたら尾行し、家に忍び込んで証拠を掴む。それが当初の計画。
「なんでうちがわかった」
「ストーキングアプリ様様」
「は、はは」
フェアリー・フェラーが醜く笑い、ドライバーの切っ先を薫の頸動脈にあてる。
露骨な脅迫に遊輔の顔が強張り、開き直りと自嘲が入り混じる、どす黒い哄笑が高まっていく。
「そうかばれたか。あっけない、こんなもんか。馬鹿だよアンタ、どんな関係か知らないけど一人で乗り込んできて……まいったな、趣味じゃないんだけどな。まあいい、埋める死体が増えただけだ」
「間宮春人、他ふたりを殺したって認めるな?」
地下室に一歩踏み込み、フェアリー・フェラーと対峙する。
「フェアリー・フェラーなのか」
「見ればわかるだろ」
男が舌打ちする。
「もうすこしで割れたのに、余計な邪魔が入った」
「逃げてください遊輔さん、コイツイカレてます、話が通じない」
「黙ってろ」
「俺は大丈夫……じゃないけど、なんとかします自分で」
ドライバーが首の薄皮を裂き、一筋血をたらす。
遊輔とフェアリー・フェラーが睨みあうあいだ、コンクリ打ち放しの地下室には、クイーンの名曲が鳴り響いていた。
「ここが現場で間違いねェ。同じ絵が飾ってある」
「それがどうした」
「早く行けよ、逃げ足の速さだけが取り柄だろ!」
薫が取り乱し急き立てる。遊輔が肩幅に足を開いて凄む。
「薫を返せ」
「俺の獲物だ」
「違ェよ」
「アレを見てもまだそんなことが言えるのか」
フェアリー・フェラーがにやにやパソコンを一瞥する。遊輔が視線に釣られ、薫が音楽すら圧する声で叫ぶ。
「見んな!」
制止は僅かに遅く、遊輔の顔に極大の嫌悪と軽蔑が浮かぶ。
終わった。
「とある少年性愛者向けフォーラムに投稿された動画だ。見覚えないか」
「……まさか」
「ポルノの主役はここにいる彼。まだ中学生か?骨格が出来上がってない」
「止めろよ」
「何千回何万回見返したかな、最高のオカズだった。専用ファイルも作ったんだよ、お気に入りを詰め込んだ……ファイル名は木こりの慰み」
「聞いてねえことぺらぺら得意げに喋ってんじゃねえ、舌抜くぞ変態野郎!」
「その調子その調子、元気が戻ってよかった!死にぞこないを殺しても面白くないものね。せっかくご足労いただいたんだ、飛び入りを迎えて鑑賞会としゃれこもうじゃないか」
薫の顔が歪む。
遊輔は無表情に聞く。
「殺しの動機は」
「異端審問官の職分。不浄な魔女は粛清されるべきだ」
「意味わかんねー」
「堕落した肉体には堕落した魂が宿る。春人は男を誑かし破滅させた、その行いに何ら良心の痛めてない。クイーンの音楽も知らない、無知無教養な若者だ」
「クイーン知らねえと殺されるとか厄介ファンの風評被害すげえな」
「私生児は罪。産まれる前に死んでれば辺獄送りでとどまったのに、身の程知らずに生き延びたから地獄に落ちる」
「中世キリスト教の価値観を現代日本に持ち込むな、五百年遅え」
「母親も魔女だ。罪人だ。妻から夫を寝取り、父なし子を産み落とす売女には地獄こそふさわしい。俺は男魔女専門、経産婦は守備範囲外。本来じきじきに審問に掛けるべきだが……多少なりとも罪の意識を持ってるなら、今すぐ命を絶って息子に謝りに行くのを勧めるよ」
穏やかに微笑んで。
「他の子も似たり寄ったりの生い立ち、世界に必要ない人間ばかり。中世ヨーロッパにおいて男色は罪、同性愛は不毛、何も生まない。男魔女は存在自体が罪」
「そーゆーテメエは」
「油断を誘うには悪徳に染まる必要もある」
「肉を交えて骨を断ったわけか。俺も父なし子だけど」
「生きてて恥ずかしくないのか」
「審問官なりきりコスに夢中なアラフォーサイコよりは」
「俺は魔女を葬る使命を帯びた。全ては神意にかなっている。火で、水で、雷で、鉄の梨で。何通りもの方法で魔女の肉を浄め罪をすすいできたんだ、むしろ褒めてくれ」
青年を犯しながら同性愛者を差別し、憎悪と嫌悪を剥き出すフェアリー・フェラーと向き合い、慎重に間合いを計る。
「罰されるべき俺じゃない。魔女だ。罪人だ」
「教えてやるよサイコ審問官、ああするべきこうするべきって思考は言葉で相手を縛りたがる奴の特徴、認知の歪みの典型的症例だ。批判精神旺盛なのは結構だが、自分で自分を洗脳して、だましだましで人生楽しいか?」
フェアリー・フェラーの顔が初めて歪み、遊輔を睨む双眸に暗い炎が燃える。
「さっさとどけ」
「人質がいる方が有利な原則も知らないのか。交渉人には不向きだな」
遊輔は無言。フェアリー・フェラーが勝ち誇る。
「……あ~、もういいや」
次の瞬間、予想外の出来事が起きた。遊輔が背広の内ポケットにケースを戻し、にっこり笑ったのだ。
「時間稼ぎに付き合ってくれてサンキュー」
「何」
「聞こえねえ?サイレンの音」
わざとらしく耳に手を翳す遊輔にぎょっとし、ロックを奏でるレコーダーに飛び付く。
地下室に渦巻く音楽が途切れ、代わってパトカーのサイレンが鳴り響く。
「アンタが犯人、俺が交渉人だとして、サツにチクらず殴り込む命知らずがどこにいる?」
口角を上げる。
「家の周りは包囲されてる。逮捕は時間の問題。せいぜい言い訳考えとけ、ルミノール反応見付かっちゃおしまいだけど」
遊輔が言い終えるのを待たず、犯罪の証拠が詰まったパソコンをひったくろうと手を伸ばす。
今だ。
フェアリー・フェラーが薫から離れ、注意が逸れた一瞬の隙を突き、床を蹴って走り出す。
「!?ぐっ、」
勢いよく脱ぎ捨てた背広で殺人鬼の視界を覆い、手頃なスパナを掴んで思いきり振り抜く。
頭を殴打されフェアリー・フェラーが跪く。そのズボンを漁って鍵をゲット、手錠を外す。
「げほげほっ!」
「待たせたな」
首を絞め付けていたベルトを投げ捨て、肩を貸して立たせ、開けっぱなしのドアの方へ引きずっていく。
「待、て。パソコン、中身」
苦しい息の下から吐き出す言葉の意味を直感的に汲み取り、薫をドアの外へ放り出すや室内に戻り、取り急ぎパソコンを回収
「後ろ!」
フェアリー・フェラーが復活した。
「よくも……」
遊輔の背後、覚束ない足取りで立ち上がった殺人鬼。
「犯して嬲って殺してやる」
鬼気迫る権幕で遅いかかる殺人鬼に対し、遊輔は。
「ぁぐっ!」
見事なケンカキックを放った。
無造作にネクタイを緩め、シャツの袖を捲り、眼鏡の奥の三白眼を狂暴に輝かせる。
「上等。ステゴロ挑んでこい」
遊輔は喧嘩の達人。
中高生の頃は毎日のように町中の不良と殴り合った。記者になってからはさらに場数を踏んだ。裏社会の取材には危険が付き物。数多くのヤクザや半グレを返り討ちにしてきた経験は、覚悟を試される修羅場においてこそ実を結ぶ。
腋を絞めて拳を構え、苛烈な闘志が滾る眼光を叩き付ける。
「ベッドに縛り付けなきゃヤれねーとか萎えることぬかすなよ。それとも何か、フィストファックに自信ねえから苦悩の梨に頼んのか」
「さす、が、西高の狂犬」
「なんで知ってんだよ!?」
高校時代の通り名を持ち出され、真っ赤になって叫ぶ様に隙ありと突っ込み、アッパーカットで殴り飛ばされる。
「ぐふっ」
右フック左フック、ジャブにボディブローに飛び蹴り回し蹴り。顔面・肩・腹にパンチラッシュを叩き込み、ぐったりした体をベッドに引きずり、しっかり手錠を掛け直す。
「じゃあなフェアリー・フェラー」
「待って、ください」
帰還した遊輔を迎えた薫が弱々しく告げ、壁伝いに戻っていく。目指すは机。
「さわってませんよね?」
「ああ……」
遊輔はパソコン本体に触れてない。よって指紋の採取と照合は不可能。
前提として前科がなければ指紋は採られないのだが、高校時代に幾度か補導経験がある相棒の身を案じ確認をすます。
「しゃべってくれてラッキーでした」
マウスで包んだハンカチをクリック、「木こりの慰み」と名付けられた動画ファイルを削除していく。
殺人現場においては証拠隠滅にあたる違法行為だが、遊輔は止めない。
粛々と過去を清算する薫の背中を黙って見守ったのち、気を失ったフェアリー・フェラーに接近し、靴裏で股間を踏み付ける。
「~~~~~~~~~~ッ!!」
「胡桃めっけ」
全身の毛穴から脂汗を噴いてビク付く体。気にせず踏み躙り、全体重を乗せた爪先を蹴り込む。
フェアリー・フェラーが大きく仰け反り、血走った眼球がぐるんと裏返る。
「割れた」
気が済んだ頃合いにハンカチを出し、手錠の指紋を拭っておく。
「他にさわってねえよな」
「わかりません、気絶してる間に運ばれたんで。二階の書斎のドアと本にはさわりました」
「めんどくせ~。一応拭いとくか」
「ご自分が壊した錠とドアもお忘れなく。もうきてるんですよね警察」
「はったり」
「だってさっき」
「何のためにケース見せびらかしたと?」
「返却時に不自然に思わせないために、ですか」
「爆音で耳がイカレて距離感掴み損ねたみてーだな」
「鍵開けスルーでしたしね」
遊輔が仕掛けたのは先入観を利用したブラフ。
ソケットケースを返すふりで内ポケットのスマホを操作し、予め録音しておいたサイレンを流したのだ。
音楽が止んだ直後の聴覚は鈍り、室内に響くサイレンを地上の音と間違える。
「通じなかったらどうしたんですか」
「別の手使った」
「たとえば」
してやったりとほくそ笑み、スマホに保存した音声を再生する。
『‐―‐---の職分。不浄な‐―――は――――るべきだ』
巻き戻す。
『フェアリー・フェラーなのか』
『見ればわかるだろ』
一時停止。
「音楽被ってんな。やっぱ直に録んなきゃだめか」
「ノイズキャンセリングすれば声だけ抽出できます。自白を引き出しましたね」
「ライブ中継してるってホラ吹きゃびびるだろ?」
背広越しの殺人鬼の独白は、所々掠れて聞き辛くなっているものの、意味が通らない程ではない。
「最後の仕上げです」
薫が深呼吸し、完璧な秩序をもった優雅さで、ハンカチを被せたマウスを動かす。
酸鼻を極める映像から遊輔たちは目をそらさない。真っ直ぐ立って現実を直視し、二人並んで春人の最期を目に焼き付ける。
「黙祷って、目を開いたままでもできますよね」
「ああ」
「マナー違反じゃ」
「俺が許す」
「遊輔さんに許されてもなあ」
「それ以外いるか?」
俺様な返事にぽかんとし、惚れ直したように微笑み、マウスから手を離す。
「……ですね」
三十分後、パトカーが到着した。
地下室に雪崩れ込んだ警察が目撃したのは、手錠をはめられた三十代の男性と、無修正のスナッフポルノを流し続ける机上のパソコン。
コンクリが四方を囲む室内には、七十年代を代表するブリティッシュロックバンド……クイーンの名曲が、何故か大音量で鳴り響いていた。
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