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第4話
耳元で囁かれる声はかすれて、熱っぽかった。それなのにどこか切なげな響きがある。
「どうって……」
忘れていたかつての同級生だなんて言えるわけもなく。
「……昔の、同級生だ」
決まり決まった事実を伝えれば、藍の反応はしばらくなかった。
「ねえ、」
ざらざらした声が、息とともに吹きかけられる。
「きみはどうしたら、僕をもう少し考えてくれるんだろうね?」
いつもの藍じゃない、そう思ったときには、藍の顔は柾の首もとに埋められていた。
藍の唇が、ゆっくりと鎖骨をなぞる。
「藍っ……」
藍の髪の毛を掴むようにしてその動きを止める。藍から身を離し、体をよじって振り向けば、すぐ近くで藍と目が合った。
「柾、僕はね、きみとこうして会いたくて日本に来たんだ」
静かに話し出す藍の側で、柾の心臓は鼓動を速めた。
「でも不思議だね。きみと会うことができたら、僕を覚えていてほしいと思ってたのに、きみと一緒に暮らし始めると、」
柾の後頭部を藍の手が支えていた。藍は優しく柾に口づけ、そっと唇を離した。
藍はどこか切なそうな眼差しのまま柾を見つめ、二人にしか聞こえない声で呟く。
「きみにもっと僕を好きになってほしくなる」
これは、なんだ……?
「……それだけ、か?」
藍が何を言わんとしているのか、柾は図りかねていた。
いや藍の言葉の意味は分かる。だが、それは何を意味しているんだ。何となく伝わってくるその想いを、勝手に思いこむのは、嫌だった。
「それだけ?」
柾の言葉を繰り返して問うてくる藍に、柾はどのように伝えていいのか分からず考えこんだ。
「……俺に、おまえを好きにさせて、それだけなのかって聞いてるんだ」
一瞬の間があった。
次の瞬間、藍がソファの背もたれをまたぎ、柾が座る隣に膝をついた。
藍は柾の肩を押してソファに横たわらせ、その上に覆いかぶさるように、自身の右手を柾の顔の横についた。
「それだけってどういうこと? その先が知りたいってこと?」
思わぬ状況になって柾は焦った。
別に押し倒されてその先を知りたいと言ったわけではないのに。
「っ違う……」
柾の続く言葉を、藍は真剣な面持ちのまま待っている。
「だから、藍、俺は――おまえの真意が知りたいんだ。なんでおまえは俺に好きになってほしいのかって――」
慎重でいたかった。
男女だったら当たり前のようなことも、勝手に勘違いしていつの間にか誤解だと取り残されるのは嫌だった。
「真意?」
藍は呟いて、片方の口角を上げた。知っているでしょと言わんばかりの表情だ。
しかしそれ以外に何か言うことはなく、藍は無言のまま柾の首筋に唇を這わせ、Tシャツをめくってその脇腹をなぞる。
素肌を直に触れられる感覚が生々しくて、柾の身体に力が入った。
「っ、ちょっ――藍……」
聞いているだろ、藍。
おまえには当然のことかもしれないが、俺にとっては――。
……というかこの男、ただこれがしたいだけなんじゃないのか。
柾の都合などお構いなしに、藍は肌に手を滑らす。藍の指先が胸の突起に触れたとき、柾はびくりと身体を硬直させた。
「藍ッ!」
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