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第6話
あの後なんとなく気まずくて、いつもはリビングで過ごす時間も、昨晩はそそくさと寝室にこもった。ベッドの上でごろごろしていたら、いつの間にか寝入っていたみたいだった。
そして今朝も――。
「柾」
髪を梳かれて薄目を開ければ、懲りることなくいつものように藍がいた。
しかしずっしりとした重みはいつも以上で、呻きながら寝返りを打とうとすれば、身体の上に藍の上半身がほぼ乗りかかっていた。
金縛りのお化けかよ……。
「……藍――」
寝ぼけ眼で、これはなんだと見上げれば、藍は上半身を伸ばして柾の額にいつものようにキスをした。
「ねえ柾、昨日の夜は、全然話せなかったね?」
「…………」
そりゃ藍は自分より早く起きて朝食を作ってくれているのだから、頭はとっくに目覚めていて、もういろんなことを考え始めているのは分かる。
だけど自分は――
「寝起きなんだけど」
非難がましく言えば、藍は承知の上だとでも言いたげに頷く。
「うん。でもきみの顔を見たら思い出したんだ」
どれだけ自由に生きてんだよ、と思いながら、柾はのしかかる藍を手で退けて、上半身を起こした。
「……これ、毎朝続けるつもりか?」
たとえ夢見がいくら良くても、たとえ起きがけの微睡みの時間がいくら気持ち良くても、これでは毎朝金縛りで起きることになる。
「するよ。きみが――」
凝りもせず手を伸ばし頬に触れてくる藍を柾は見上げた。
「僕をもっと好きになってくれるまではね」
* * *
冗談じゃない。
毎朝あんな起こされ方をされてたまるものか。
朝食を言葉少なに食べた後、柾は外出した。
藍にどこに行くのと問われたから、友人のところと適当に答えて、上着のポケットに藍からもらった名刺を入れて、家の鍵と財布だけを持って出た。
マンションの階段を下りながら考える。
大体大切なことが抜けてないか。
俺は、いつから男が守備範囲になったんだ。
生まれてこの方、男に対して特に恋愛感情なんて持ったことがないし、それは藍に対してだって――。
そりゃ確かに同性の自分から見ても惚れ惚れするような外見だが、それと恋愛は違う。
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