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第7話
男同士で、あんな――……。
昨晩、太腿の内側を伝う藍の手の感触を思い出して、柾の心臓は小さく跳ねた。
藍の熱い吐息や唇の柔らかい感触、その舌使いが生々しかった。
いつの間にか昨晩の仔細を思い出している自分に気がつき、柾は動揺した。
俺、もしかして、男も大丈夫なのか?
確かに、昨晩突然押し倒されてあんなことをされたものだから、驚いて制止はしたが、嫌悪感とか気持ち悪いというような感覚はなかった。
マンションの前の道に出たとき、ふとそんな考えが浮かんできて、慌てて首を左右に振った。
それは藍と親しかった時期があるからだ。
その男が同居していて、特に自分に対して害があるようでなければ、常に警戒することはないし、あんなふうに顔を近づけられたとしても、別に逃げるほどのことでもないし……。
言い訳をしている自分に気づき、自問自答する。
藍が相手がなら、それほど嫌じゃない――のか?
それは周囲の車の走行音とか通り過ぎる人の話し声とか、街の喧噪すべてが一瞬遠のくほどの驚愕だった。
藍、なら?
他の男だったらどうなんだ……?
通りすぎて歩いていく中年男や高校生の男子の顔をちらりと見た。だがそれら男と自分が寝ている姿なんて、とても想像できなかった。
だけど、藍には、それほど抵抗感がない。
その理由を考えて、やはり藍とは、小学校の頃の親しさがあるせいだと思いつく。
それは友愛であって、友人に向ける感情から寛容になっているだけなんだ。
そう自分を納得させて、柾は視線を落とした。
……それに、もし男を好きになれるとしたらどうするんだ。
今後生きていくのが大変になるだろうことは、容易に想像できた。
今でこそ奇異な目で見られることも少なくなったかもしれないが、それでもマイノリティーであることには変わりがないし、根深い偏見もきっとまだあるだろう。
俺がもし、藍と関係を持ち始めたら、ずっとその関係を、まるで道ならぬ恋のように胸の奥にしまったまま、影を抱いて生きていくのか?
――早く藍と、離れなければ。
柾は胸ポケットに入れた名刺を取り出して、そのオフィスの住所を見た。
幸いそれほど遠くないところにあり、ここから小一時間ほど電車に乗れば、そのオフィスに辿りつけそうだった。
柾は顔を上げて到着した地下鉄の駅名を確認して、駅の構内へと入っていった。
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